もうすぐ200ワットに届きそうなGPUの消費電力、RAIDが当たり前のストレージ事情など、イマドキのPC事情において電源ユニットに求められるのはスペックだけでなく、高効率、高性能、低消費電力といった面でのトータルバランスだろう。このような状況の中で、2008年3月にリリースされたのがENERMAXの「MODU82+」シリーズと「PRO82+」シリーズだ。
この新世代の電源ユニットがイマドキのハイエンド電源ユニットに求められる厳しい要求をどれだけクリアしているのか、最近の電源事情をチェックしながら見ていきたい。(記事掲載当初、MODU82+の製品名を誤って記載していました。おわびして訂正いたします)
電源ユニットの進化において、1つの転換点となったのがインテルのCPU「Pentium 4」の登場だ。CPU用の供給電力として追加されたDC12ボルト系を強化するために、12ボルト系統(+12V)を供給する電源系統とコネクタを追加した「ATX12V電源仕様」が生まれたのである。
現在のATX12Vは、+12Vを供給するケーブルとしてCPU用の4ピンコネクタとPCI Express用の6ピンコネクタを持っている。PCI Express用は、高性能化がますます加速しているハイエンドグラフィックスカードに電力を供給するために、最近利用する機会が増えていることは、ハイエンドグラフィックスカードのユーザーなら「頭の痛い問題」としてよく知っているだろう。
最近のハイエンドGPUが必要とする消費電力は、急激に増加している。GeForce 8800 GTのTDPが105ワット、GeForce 8800 UltraのTDPは実に175ワットにも達する。そのほかでも100ワットを超える製品は多数ある。最近のCPUでは、クアッドコアのCore 2 Extreme QX9650でTDPが130ワット、Phenom 9600でTDPが95ワット程度だ。これまでPCパーツの中で圧倒的に電力消費の多かったCPUを、最新のGPUが大幅に上回っているのが分かるだろう。
このような状況で、マルチGPU技術である「NVIDIA SLI」や「CrossFireX」を構築しようとすれば、システムで必要となる電力はさらに増えることになる。2枚以上のグラフィックスカードを差すことになるため、枚数分だけ電力供給を倍増しなければならないからだ。デュアルGPUコアを搭載したGeForce 9800 GX2で「Quad SLI」を構築したり、Radeon HD 3870を4枚差して「4GPU-CrossFireX」を動作させようとすれば、(単純計算ながら)消費電力はシングルGPUグラフィックスカードを使っているときの4倍になるのだ。
高い3D描画性能を得る代償として、電源ユニットへの要求がこれまで以上に厳しくなるのは当然のことだ。グラフィックスカードをマルチGPUで利用した場合、それぞれに安定した電力供給をするためには、+12V系統が複数あるのが理想である。1系統あたりのアンペア数にも注意しなくてはならない。GeForce 8800 GTクラスのGPUを2枚使うとなれば、単純計算で(105×2)ワット/12ボルト=17.5アンペアとなる。ヘビー級の3Dゲームを動かしているときには、消費電力がピークになることも予想されるため、供給できる電流量には余裕を持たせたほうが安全だ。ハイエンドクラスのグラフィックスカードをマルチGPUで使用するのであれば、16アンペア以上、できれば20アンペアは欲しいところだ。
「MODU82+」「PRO82+」はともに最新のATX12Vの仕様であるVer2.3に準拠しているのが特徴だ。+12Vは全部で3系統用意されていて、最上位機種の「MODU82+ EMD625AWT」「PRO82+ ERP625AWT」にはグラフィックスカード用のPCI Express電源コネクタが4本用意されている。EMD625AWTは着脱式の[6+2]ピンコネクタが4本、ERP625AWTは[6+2]ピン2本と6ピン2本という構成だ。今後増えるであろう[6+2]ピンに対応できるほか、Quad SLIなどのマルチGPUにも楽に対応できるのはハイエンドグラフィックス環境を利用するユーザーには高く評価されるだろう。3系統ある+12Vはそれぞれで25アンペア(425ワットモデルで22アンペア)となっており、将来を考えたうえでも余裕のある電流量をカバーできる。
意外と見逃されがちだが、電源ユニットに搭載されている排気ファンはPCの筐体において内部のエアフローを整流させる役割も担っている。ケースのレイアウトによっては、排熱効果が最も期待されることも多いので、電源ユニットのファンは地味ながらも非常に重要なパーツといえる。だが、それだけにPCパーツの中でも大きな「雑音」の発生場所になりやすい。
近年では、ハイエンドPCにも「静音」を求めるユーザーが増えている。とくに、大量の動画をトランスコードするユーザーにとっては、「寝ている間にバッチ処理」というケースが多い。そういう場合、PCが一晩中うなりつづけているのはたまらない。そこまでいかなくても、PCがうるさいよりは静かでいたほうが、人が住む環境としては正しい姿だ。
そういう事情もあってか、イマドキの電源ユニットは稼働音を抑えることも要求されている。そのために、プロペラを大きくして回転数を下げている製品や、プロペラの形状を工夫したりモーターのベアリングを改良したりと、各メーカーが知恵を絞っている部分でもある。排熱効率と静音を両立させるのは至難の業であるが、現在では稼働時で20デシベル以下の製品も多い。ちなみに20デシベルというのは一般的に「木の葉のふれあう音」といわれている。30デシベルが「ささやき声」となっているので、20デシベル以下がどれだけ小さい音なのか想像できるのではないだろうか。
「MODU82+」「PRO82+」の静音性能は、(カタログスペックながら)稼働時で16dBに抑えられている。ファンは12センチとなっており、稼働音を抑えるために、「ファン回転管理スピードガードシステム」や「ダブルボールベアリング」が採用されている。このファン回転管理スピードガードシステムとは、電源内部の温度や負荷に連動してファンスピードを制御するもので、25度環境下、負荷60%時においても450rpmで動作することが可能となっている。このほか、空気を取り込むときに発生する乱気流ノイズを削減するために独自の「乱気流ノイズ低減エアーガードデザイン」を導入するなど、静音性能のために施された工夫は多岐にわたる。
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