「Windows 10」が目指す世界とは?――Microsoftの反転攻勢シナリオ本田雅一のクロスオーバーデジタル(1/3 ページ)

» 2015年01月23日 09時00分 公開
[本田雅一,ITmedia]

変化しつつある「Windowsの位置付け」

 米Microsoftは現地時間の1月21日に、米ワシントン州レドモンドに構える本社で「Windows 10」の発表会を開催した。

 PC向けWindows 10の最新Technical Previewは来週(1月26日週)リリースされ、Windows Phone 8.1の後継となるWindows 10(Windows 10 for phones and tablets)として初のTechnical Previewは2月に提供される予定だ。Windows 10の製品版は今年後半に発売される見込みだが、この発売から1年間、Windows 7/8.1、Windows Phone 8.1のユーザーに対しては無償でアップグレードを提供することが明らかになった。

米MicrosoftでOperating Systems部門を率いるテリー・マイヤーソン氏は、Windows 10のリリース後1年間、Windows 7/8.1、Windows Phone 8.1に対して無償でアップグレードを提供すると発表。Windows旧バージョンからWindows 10への移行を強く促す

 発表会では各種機能やWindows 10の発表に伴うハードウェアの紹介もあったが、筆者が最も強い印象を受けたのが、「Windowsの位置付け」が変化していることだ。この変化は急に始まったものではなく、ある時点から綿密に準備されてきた。

 例えば昨年、米サンフランシスコで開催されたWindows開発者会議のBuildでも、Windows PhoneとXbox One、それにPC用Windowsで同じアプリケーションを動かす枠組み「Universal Apps(ユニバーサルアプリ)」について説明があった。

 そうした背景の中、Windows 10を発表するに伴って開発エンジニア向けのライブラリやツールだけでなく、製品戦略やロードマップ、各種マーケティングやプロモーションなど事業全体に渡って、新たなWindowsの枠組みに対応したさまざまなアップデートが行われ、発表会の中で紹介されたのである。

 新たな枠組みにおいて、WindowsはPCのカテゴリだけでなく、さまざまなデバイスに提供され、またその一部はクラウドに溶け込んでネットワークサービスと組み合わせて提供される。発表会では“Windows as a service”とアナウンスされたように、今後は「Office 365」などと同様、対応機器を動かすために必要な構成要素をサービスのように提供する。

 このことによって、Windows10は対応するあらゆる端末との間で接続性と情報の共有、共通のアプリケーションやユーザーインタフェース(UI)を実現するため、PCやタブレットだけではなく、Windows PhoneやXboxに至るまで一貫したアーキテクチャの元に提供される製品と位置付けられる。

 同時に「ソフトウェアパッケージ製品としてのWindows」は存在しなくなる。Windows対応機器を購入した利用者には、Windows 10サービスが提供され、そのときどきの技術トレンドに合わせた新しい機能が提供される。

 この発表会で紹介された2つの試作ハードウェア製品もまた、そうしたWindows 10のコンセプトを別の角度から具現化したものと言える。すなわち、利用するデバイスという観点で見たとき、Windows 10が描く世界はPCに限らず、ネットワークサービスや相互接続の手順を介して、多様なデバイスへと広がっていく可能性を持っているということだ。

 ここではPC用OSとしてのWindows 10を簡単に紹介しつつ、Microsoftがどのようなシナリオで、イノベーションをもたらそうとしているかについて考えてみることにしよう。

サティア・ナデラCEOのリーダーシップで反転攻勢へ

 昨今のMicrosoftを語るうえで、決して避けて通れないのがCEOの交代だ。ビル・ゲイツ氏もその素養を見込んだというサティア・ナデラ氏が、スティーブ・バルマー氏の後を受けてCEOとなった。

 ナデラ氏は、従来のビジネスモデルに固執することをやめ、現代のテクノロジー業界が置かれている環境に最適な企業の形へと変えようと努力してきた。バルマー時代には決して行われなかっただろう、iOS/Android端末向けのOfficeアプリ無償提供なども、ナデラ氏が進めてきた戦略である。

 「モバイルとクラウドのことを最優先で考えろ(モバイルファースト、クラウドファースト)」というメッセージは、何度も繰り返し新しい世代のリーダーから口にされることで浸透していった。クラウドへの移行や、それ以前にゲイツ氏が1998年から口にしていた「ソフトウェアはいずれ、すべてサービスになる」という言葉など、先見性のある考えがありながらも、なかなか大胆なビジネスモデルの転換を行えてこなかったMicrosoftは、この1年で大きく変化した。

新CEO就任から約1年、サティア・ナデラ氏の手によってMicrosoftは大きく変わりつつある。同氏はWindows 10の発表会に登壇し、「Windows 10はよりパーソナルなコンピューティング時代に即した新OS。現Windowsユーザーの15億人がWindows 10を気に入り、さらに何十億もの人々がWindowsをホームグラウンドとして利用することが理想」などと語った

 実際に米Microsoft本社に取材をしてみても、本社のマーケティング担当者などは「サティアならどう考えるか」と必死で復唱しながら、自分が向かうべき方向を見直す発言をしていた幹部が多かった。OSを売り、Officeを売り、バックオフィスを売る。そんなMicrosoftは、OfficeだけでなくOSのビジネスも、Microsoftの提供するサービスプラットフォームの一部にしてしまおうとしている。

 この意識・組織の変化は決して小さなものではない。

 振り返ればMicrosoftは2007年1月、AppleがiPhoneを投入して以来、コンシューマー向けパーソナルコンピューティングの分野において何も新しいものを生み出してこなかった。Windows 7はよい改良であったが、あくまでも「よりよいWindows Vista」だった。肥大化が指摘されたWindows Vistaよりも評判はよかったが、パーソナルコンピューティングのトレンドを変えるものではない。

 Windows 8は唐突に登場し、コンシューマー市場からライトなPCユーザーを奪ったiPadを意識したもので、こちらも言ってみればAppleの後追いだ。PC向けOSとして標準の位置にあるWindowsを守り抜き、最後は数の論理で勝ちに持ち込むパターンである。

 この間、同社の成長は企業向けのソフトウェア、クラウドが収益を高め、毎年のように過去最高益を出していたものの、「1人の消費者」あるいは「PCファン」といった視点から見れば、何か発表をする度に期待が下がり続けていた面もあったと思う。

 しかし、Appleは今やイノベーターではなく、Appleのルールを守る壁に囲まれた城塞都市のようだ。ルールを根本から変化させる真のイノベーターではなくなっている。同社は引き続きイノベーターであり続けたいと考えているかもしれないが、その強さの根源となってる枠組みを覆すことはできないという意味で、以前と同じにはなれない。

 もちろん、Windows 10が登場したからといって、コンシューマー市場におけるMicrosoftの立ち位置が大きく変わることはないだろう。すなわち、急にWindows 10搭載のスマートフォンが増えるわけではなく、Appleが築いてきたiOS向けアプリやコンテンツを含むエコシステムに匹敵するものを作り上げられるわけではない。

 しかし反転し、攻勢をかけるための準備が徐々に整ってきてきたように思う。

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