「Apple Watch」の圧倒的な完成度とそれでも拭えない不安本田雅一のクロスオーバーデジタル(2/4 ページ)

» 2015年05月08日 12時15分 公開
[本田雅一ITmedia]

想像以上に「時計」であること

 これまで、いくつかのスマートウォッチを入手し、実際に使ってもいたが、長期間使いたい、あるいは毎日装着したいと思えるような製品はなかった。腕時計として水準レベルに達していたのは、「Pebble」ぐらいではないだろうか。

 どのメーカーも世代を重ねるごとに改良はされるのだが、どれも「腕時計」として通用するレベルではなかったと思う。装着感や使い勝手の面で、あるいは質感やデザインの面で。使用者によって重視すべきところは違うだろうが、「スマートウォッチだから」という理由付けがなければ、自分のために腕に巻こうとは思わない。

 しかし、そこはスマートフォンと連動して、きっと何か新しい体験を得られるのだと期待して、少々の質感や装着感、デザインには目を瞑(つむ)ってきた。というのが、従来製品オーナーの本音ではないだろうか。少なくとも筆者はそうだ。

 これに対し、Apple Watchはすでにハンズオンの際に質感や(写真では伝わりにくいものの)ディテール、形状、バンドのバリエーションなどが納得できるレベルに達していることを確認できていたのだが、限られた時間内で機能を確認することに集中しており、時計としての優秀性については完全に把握しきれていなかった。

 そう痛感したのは、42ミリフェイス/リンクブレスレットのApple Watchを自分自身でフィッティングしてからだ。

 もともと、想像よりも腕への当たりがやさしく、装着時の不快感が少ないとは思っていたが、リンクブレスレットの精緻な作りと腕へのフィット感は、同タイプの高級時計を見渡しても良好だ。

筆者が入手したApple Watchは、42ミリステンレススチールケースとリンクブレスレットを組み合わせたもの。装着感は良好だ

 両開きとなるバラフライ形式の留め金部は、外側の高さがそろうようフラットにデザインされる一方、手首の柔らかい部分に当たるパーツが広めに、やさしく当たるよう配慮されており、さらにバンドリンクの接合部が強く密着しないよう、周りをわずかに浮かせるよう設計されていた。

両開きとなるバラフライ形式の留め金部は、外側の高さがそろうようフラットにデザインされている

一方、手首の柔らかい部分に当たるパーツは広めに、やさしく当たるよう配慮されている

 リンクやリンクを外す際に押すボタンなどは緻密で、隙間は最低限に抑えられており、外部にバネ部品などは一切露出しない。高級時計なのだから当たり前と言えば当たり前だが、ここまで装着感のよいステンレスブレスレットの時計は経験したことがなかった。

 さらに、パーツごとのリンクは「自分の指」だけで切り離せるよう設計されており、特別な道具なしに簡単に分解し、また再接合できる。

自分の指だけでブレスレットのリンクを外し、最適な長さに調整できる。取り外したリンクの外側(写真=上)と内側(写真=下)。バンドリンクの接合部は強く密着しないよう、周りをわずかに浮かせるよう設計されている

バラフライ形式の留め金部はこのように開く。片方だけ外した状態(写真=上)と、両方外した状態(写真=下)

 パーツの幅はそれぞれ5ミリ。装着感がよいため、一般的なブレスレット型バンドよりも「ジャストサイズ」にしたほうがフィーリングがよい。これは時計本体裏面の、心拍センサーが装着された部分の形状にも秘密がありそうだ。本体裏のセンサー部は、ゆるやかなカーブと浅めの角度の面取りで、Apple Watchの腕への当たりを緩和している。

本体裏のセンサー部は、ゆるやかなカーブと浅めの角度の面取りで、Apple Watchの腕への当たりを緩和している

 このリンクブレスレットは100を越える点数の部品で構成されており、すべてのステンレス素材は切削工程で生産されている。全パーツの加工時間は9時間を越えるそうだ。

 「時間をかけて高級品として作られているからよい」ということを書きたいわけではない。高級時計を含めてもトップクラスの精緻かつ感触のよいブレスレットを、時計メーカーではないアップルがきちんと作り込んでいるという点が、この製品を理解するうえでは重要と感じたのだ。

 ちまたではマグネットを用い、ほぼ無段階の長さ調整が可能な、レザーループとミラネーゼループ、2つのバンドが、ステンレスケースのApple Watchでは人気のようだ。これらは磁石を内蔵しているため、機械式時計や防磁ケースを備えないクォーツ時計とは別の場所で管理したほうがよい。

 が、それ故に時計メーカーは避けてきた構造であり、やはりその装着感には感心する。筆者も6月納品とのことで随分先にならなければ入手できないが、ブライトブルーのレザーループバンドを注文している。パソコンを使う際にパームレストに一切、金具が当たらず快適だからだ。

マグネットにより、ほぼ無段階に長さを調整できるレザーループバンド(左)とミラネーゼループバンド(右)。左は筆者が注文したブライトブルーのレザーループバンド

 スマートウォッチという商品は、常に装着しているものの、実際に操作している時間は短い機器だ。長時間、操作が必要な際には腕時計型機器を通じてスマートフォンを使うのではなく、スマートフォン自身を操作したほうがいい。

 だからこそ、存在感を主張しないデバイスのほうが、「通知用」としてはよりよいのではないか(存在を主張する腕時計は向かない)と思っていたが、ここまで本格的に「腕時計」なのであれば、その抵抗感は大きく緩和される。

 すなわち、スマートウォッチという機能があるから、諦めて腕時計としての機能性には目を瞑ろう……と思わなくても自然に受け入れられる。このように思えたスマートウォッチは、Apple Watchが初めてだ。

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