あなたが知らない過剰在庫の世界――作りすぎた製品はどう売りさばかれるのか?牧ノブユキの「ワークアラウンド」(1/2 ページ)

» 2015年09月27日 08時00分 公開
[牧ノブユキITmedia]

どうしても契約数量を売り切らなくてはいけないメーカーの苦悩

 PC周辺機器やアクセサリの業界では、製品の設計から製造までを、下請け先が丸ごと請け負う場合が多い。

 俗にODM(Original Design Manufacturing)と呼ばれるこのモデルでは、あらかじめどれだけの数量を製造するかが契約に織り込まれており、それによって卸価格が決定されていることがほとんどだ。定められた数を売り切るまではその卸価格が適用され、売り切った後も継続生産することになれば、そこであらためて価格や数量などを含めた契約を結び直すというわけである。

 製造数量が契約の中で明文化されていることから、メーカーはどれだけ製品の売れ行きが悪くても、その数量は必ず仕入れなくてはならない。単に販売数が見込み違いで売れないだけのこともあれば、仕入れ担当者が素人で、原価を下げるために明らかに無謀な数量を発注していることもある。

 また、数量的にさばくのは難しいと分かっていながらも、別のメーカーと販売権の奪い合いになり、やむなく過剰な数量を発注したような場合も、早い段階から倉庫に在庫が積み上がることになる。

 このように、通常のペースで売っていては到底さばくことができない在庫を抱えた場合、メーカーとしてはあの手この手を使い、早く現金化する必要にかられる。PC周辺機器やアクセサリの場合、組み合わせる本体機器がモデルチェンジすることで一夜にして型落ちになる可能性も高いうえ、そうでない場合も、資金がショートする原因になりかねないからだ。

 こうした場合にメーカーが取れる手法は一見同じように見えるが、中にはアッと驚くようなワザも存在する。

お約束は「カラーバリエーション化」と「白箱への差し替え」

 契約した数量を何が何でもさばかなくてはいけない場合において、メーカーが取り得る手法は、大きく2つに分かれる。その分岐点となるのは、まだ生産が完了していないか、それとも既に全数出来上がっているかだ。順に見ていこう。

 「まだ生産が完了していない」場合とは、例えば年間で100K(10万個)の契約があるとして、そのうち3万個は既に生産が完了して販売も始まっているが、残りの7万個は中の回路こそ生産が完了しているものの筐体はまだ生産されておらず、そのままでは組み立てられない回路だけが倉庫に山積みになっているような状態を指す。もちろん、回路も含めて一切生産に着手していない場合もあれば、製品としては生産が終わっているが、パッケージに封入されていない状態もある。

 もし普通に残りの7万個を生産したとしても、最初の3万個を売り切らなければ、店頭に並べることはできない。そうなると当然ながら、販売の機会を得ることはできない。そのためには、最初の3万個とは別の製品として売り込むことが、販売機会を得る方法としては手っ取り早い。別の製品にしてしまえば、既に最初の製品を陳列している販売店も、横に並べてくれる可能性があるからだ。

 こうした場合によく用いられる手法が、カラーバリエーションだ。つまりボディのカラーだけを変えて、別の製品に見せるというワザである。色が違うだけなら、製品のスペックが変動することもなく、また組み立て手順なども変わらないため、作る側としてもリスクが低い。カタログやWebでも、従来の写真がそのまま使えるし、どうしても新しい色の写真を用意しろと言われれば、Photoshopなどで色をいじってしまう手もある。

 何より、単に色が違うだけで、全く仕様が異なる製品へと変ぼうしたわけではないので、下請け先との契約上も、別の製品と見なされてモメる可能性は低い。なるべく契約書に「カラーバリエーションも含む」などと一筆を入れておいたほうが安全だが、下請け先としてはとにかくきちんと数をさばいてもらうことが最優先なので、この辺りは折り合えるポイントになる。

 違う成型色でボディを製造するためのコストはかかるが、全体からすると微々たる額だ。「スペシャルカラー、全国で1000個限定!」などといったコピーがついている場合、こうした事情があって誕生した製品である可能性は否定できない(もちろん、まっとうな経緯で誕生したスペシャル製品の可能性もある)。

 このほか、パッケージをあえて白箱に代え、バルク品扱いで販売するというワザもよく用いられる。中身はまったく同じなのだが、パッケージが白箱であれば、セール品などとして販売店に導入してもらえる確率が高くなる。

 ユーザーに買ってもらうためには併せて価格の調整も必要になるが、このままだと倉庫に山積みになることが決定的な在庫を、パッケージを差し替えるだけで販売店に卸すことができ、ユーザーの目にとまるのであれば、メーカーとしては意義は大きい。別の型番に変えてJANコードを取り直す作業が必要なこともあるが、こちらのコストは微々たるもので、下請け先にもほとんど負担にならない。

 やや難易度が高いが、もう少し融通が利くのであれば、カラーの変更ついでにキャラクターものに切り替えるというワザもある。一般的に、キャラクターのイラストなどを使った製品は、もとの製品の完成度が低くても、また多少高価でも、マニア心をくすぐることである程度は売れてしまう傾向にある。

 これを利用して、単体ではいまいち売上が伸びなかった製品を、キャラクターものに切り替えて世に出すわけだ。具体的には、ボディの成型色の変更のほか、キャラクターの図柄のシルク印刷、特殊なパッケージへの差し替えなどを平行して行い、別の製品に仕立てることになる。

 こうした「キャラクターグッズ化」の作業は、もとの下請け先とは異なる業者に依頼することになるので、下請け先としてはボディの成型色変更を除いて手間もかからず、すんなりと受け入れられることが多い。もちろんメーカー側としては新規パッケージ制作などの追加作業が発生するうえ、権利者との版権交渉なども含めて人的なコストは発生するが、一定の数を売り切ってしまえるのであれば、背に腹は変えられない。普段からキャラクターものを手掛けているメーカーが得意とする方法の1つだ。

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