2014年になると、HMDの情勢は激しく変化します。Oculus Rift以外にも「VRのために作られたHMD」が続々と登場してきたのです。
特筆すべきは、ソニー・コンピュータエンタテインメントの参入でしょう。同社は2014年4月、PlayStation 4(以下PS4)用のVR対応HMD「Project Morpheus」を発表しました。その存在は2013年後半からうわさされていましたが、世界で3500万台以上(2016年1月実績)売れている家庭用ゲーム機の周辺機器としてVR対応HMDを投入するということで、VRが一般家庭へ急速に普及する期待が高まりました。
2015年9月、Project Morpheusの製品名は「PlayStation VR」になることが発表されました。現在は2016年上期の発売予定に向けて、ハードウェアとソフトウェアの両方で開発が進められています。
米Googleは、よりユーザーに身近なアプローチからVR対応を始めました。2014年6月に開催した年次開発者会議のGoogle I/O 2014にて、ダンボールを折り畳み、スマートフォンを差し込むだけで作れる簡易的なVR対応HMD「Cardboard」(英語におけるダンボールのこと)を発表し、参加者全員に配ったのです。これとともに、カジュアルユーザー向けにYouTubeやGoogleストリートビューなどをVRに対応させました。
CardboardはオープンソースのHMDとして仕様が公開されており、複数のメーカーが組み立て式の互換製品を安価(税込1000円程度から)に販売しています。
Oculus VRも大きな動きを迎えます。米Facebookは2014年3月に同社を20億ドルで買収すると発表し、このニュースは世間を騒がせるとともに、VR対応HMDの将来性を再認識させられる出来事となりました(2014年7月には買収完了)。
Facebookによる買収で注目を集めるOculus VRは2014年7月、第2世代のアプリ開発者向けキット「Development Kit 2(DK2)」の出荷を開始します。1920×1080の有機ELパネルを採用したことで、画面が粗くて液晶の残像が見えていた第1世代よりも画質と遅延が大幅に改善され、VRの体験レベルがさらに向上しました。
さらに、外部赤外線カメラとHMD本体の赤外線LEDが追加されたことで、頭の位置を取得できる「ポジショナルトラッキング」が搭載されたことに注目です。これにより、HMDをかぶった人が上下前後左右に頭を動かすと、VR内でもカメラが上下前後左右に動くようになりました(同様の仕組みはPlayStation VRでもPlayStation CameraとカラーLEDを使って実現されています)。
2015年3月には、スマートフォンメーカーの台湾HTCが、世界最大級のゲームダウンロード販売プラットフォームであるSteamを運営するValveと提携し、「HTC Vive」というVR対応HMDを発表しました。ValveのVR技術「SteamVR」を採用していることが特徴で、世界のゲーム市場に影響力のあるSteamとのタッグによる差異化を図っています。2016年1月には第2世代の開発キット「Vive Pre」が発表されました。
これ以降は、Oculus Rift、PlayStation VR、HTC Viveの三大陣営として、VR対応HMD製品が扱われるようになります。
また、Oculus VRは韓国Samsungと提携し、PC用のOculus RiftだけではなくSamsung製スマートフォン専用のはめ込み型HMDである「Gear VR」も2014年から開発し、2015年末に一般製品として発売しています。
Gear VRはOculus Riftと違ってポジショナルトラッキングはありませんが、専用のセンサーやタッチパッドを搭載しているため、Cardboardよりも性能が高く、しかもPCとケーブルをつなぐ必要がないので、ワイヤレスで快適に利用できるという利点があります。
Samsungのスマートフォンは日本市場より海外で幅広く売れており、企業別の海外シェアはAppleを抜きトップメーカーとなっているため、そのフラッグシップモデルに対応したGear VRには潜在的なユーザーが数多く存在します。
このように、1人1台になりつつあるスマートフォンを利用した簡易的なVR対応HMDと、より高性能なPCやPS4を用いたリッチなVR対応HMDが、どちらも出そろいつつあるのが2016年初頭現在の状況です。
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