ドローンがデング熱から人間を救う? 蚊の繁殖地を特定、殺虫剤の散布も

» 2016年03月13日 06時00分 公開
[中井千尋ITmedia]

 2014年夏に代々木公園が一時封鎖されるという事態を招いた「デング熱」。デング熱は、一般的にネッタイシマカ(蚊)の生息する熱帯・亜熱帯地域で発症が多いといわれている。

 日本では、収束したように思われるデング熱だが、今度は日本人にも人気の観光地「ハワイ」で猛威を奮っている。ハワイでは、わずか4カ月間で250人が感染。1940年代以来の大流行ということで、ハワイの郡長が「非常事態宣言」を発令した。いまだ、デング熱への警戒心は世界中で高まるばかりだ。

 そんな中、シンガポールでは小型無人飛行機「ドローン」をデング熱対策に活用しようとしている。通常6月〜10月がデング熱シーズンといわれている同国だが、実のところ2016年に入ってから異例のデング熱流行に振り回されており、ドローンが救世主になるのではないかと期待されている。一体どうやって蚊を退治するというのだろうか。

ドローン ドローンイメージ写真(撮影:細谷元)

ドローンで蚊の繁殖地を調査、殺虫剤を散布

 そもそもデング熱は、媒介する蚊に刺されることで発症し、高熱、頭痛、筋肉痛、関節痛や皮膚発疹がその主な症状だ。致死率は1%だが、まれにデング出血熱に発展し、死に至ることもあるという。

 2015年、シンガポールでのデング熱発症事例は通常に比べて少なかったが、年末から急激に増加。2016年に入ってからの件数は2月16日時点で3400件を超えた。グラフからもここ数年で最も流行していることが分かる。

ドローン グラフから見るシンガポールのデング熱発症事例数(シンガポール政府機関、国家環境庁のWebサイトより)

 蚊はちょっとした水たまりでも卵を産み落とし、3日で孵化をする。また、卵は乾燥に強く、水がなくなっても半年間も耐えられるという。こうなったら、やはり卵を産み落とす場所(水たまり)を徹底的に失くすしかない。

 さまざまなことに罰金を課す、罰金大国のシンガポール。外務省の海外安全サイトによると、こういった蚊の繁殖場所を放置した場合、最高1万シンガポールドル(約81万円)の罰金が課せられるという。(為替は2016年3月9日時点の情報)

 シンガポール政府機関、国家環境庁(NEA)によれば、有効なデング熱対策は「蚊の繁殖場所である鉢植えの受け皿、排水溝のすきまや雨どいなどを徹底的に失くすこと」だという。その中でも人の目が届きにくい「屋根の雨どい」で、蚊の繁殖撲滅に向けて試験利用されているのが、ドローンだ。

 NEAは通常、長い棒に取り付けたカメラを利用して雨どいを調査しているが、ときには建物外部に足場を組んで調査することもあり、多くの人手が必要になる上に危険も伴うという。こういった場面でドローンを利用することにより、安全かつ少ない人手で調査が可能となる。

 さらに、ドローンを使い、蚊の幼虫の殺虫剤を雨どいに置いて、成虫になるのを防ぐ対策も行っている。2016年後半までこのようなドローンの試験利用を続け、効果次第でさらに幅広い業務で活用することを検討しているという。

ドローンを活用して「生活の質」を向上させるシンガポール

 ちなみに、シンガポール政府がドローンを活用しようとしているのは、デング熱対策だけではない。シンガポールの海事港湾庁(MPA)は、ローカルのエンジニアが開発した水面に着陸可能なドローン「Water Spider」を使って、原油流出事故の調査や、海難事故での遭難者の捜索・救助などの緊急事態に対応できるよう飛行実験を実施している。このドローンで、事故現場や遭難者の早期発見を目指すという。

 シンガポール大手紙「The Straits Times(ザ・ストレーツ・タイムズ)」によれば、同国の運輸省(MOT)は政府機関の業務効率化や労働力節減のため、ドローン関連業者との間で一括契約を結び、各機関がドローンの機体と運用サポートの提供を受けられる体制を整えようとしている。

 シンガポールは、今回紹介した蚊の繁殖地の調査以外にも、建設現場の監視など25つの業務でドローンを活用した事業を試験的に行っている。広がり続けるドローン活用事例に目が離せない。

ライター

執筆:中井千尋(編集協力:岡徳之)


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