Appleは6月13日(現地時間)、米サンフランシスコで開催中の世界開発者会議「WWDC 2016」で、iOS、macOS(旧OS X)、watchOS、tvOSのアップデート計画を披露した。
いずれも開発者向けプレビュー版が即日リリースされている。秋から年末までの間に、それぞれの新ハードウェア投入タイミングを見計らいながら、製品版OSの無償提供が開始される予定だ。なお、iOSとmacOSは7月にβテストが始まる。
さて、既にWWDC 2016に関して多くの記事が掲載されている。細かな発表内容については基調講演のレポートを、また各OSの新機能詳細についてはApple自身のWebページを参照するのがよいだろう。
筆者は少し視点を変えて、iPhoneが生み出した現代のスマートフォントレンドを振り返りながら、AppleがiPhone(iOS)というプラットフォームを、どのような方向に前進させようとしているのか、について考えてみたい。
iPhoneが初めて販売されたのは2007年6月末のことだ。まだ登場して10年経過していない。それ以前にも今で言う「スマートフォン」……つまり、パーソナルコンピューティングと電話の融合を試みた製品はあったが、いずれも定着するには至らなかった。
理由はいくつもある。
インターネットのリッチコンテンツに自由にアクセスできる程度の携帯電話インフラ、パーソナルコンピューティングと言える程度に高速なプロセッサ、小型でも十分な駆動時間が得られるバッテリー、それに「コンピューティングによる価値」が、どんどん手元にあるコンピュータからネットワークサーバ……すなわちクラウドへと移っていった時期でもある。2007〜08年(3Gネットワークに対応するモデルが出るのは、初代から1年後)は、そうした境目にあった。
しかし、最も大きな理由はユーザーインタフェース技術に大きな革命があったからだろう。今では当たり前のタッチパネルによる操作は、指先だけでコンピュータを操れるようになるための最初の一歩だった。
加えてAppleが、iPhoneを完全な汎用(はんよう)コンピュータとして解放するのではなく、アプリの流通に関して管理体制を敷いたこともプラスに働いた。今では管理されたアプリストアの仕組みはパソコンにも導入されているが、当時斬新だったこの仕組みがあったおかげで、限られた能力、バッテリーの中でも体験をコントロールし、不作法なアプリを排除する枠組みが生まれたからだ。同時に決済システムと統合することで、アプリ市場経済を生み出した。
AppleがiPhone向けにサードパーティー製アプリのインストールを認めた当初、その本数はわずか500本ほどでしかなかったが、現在は200万本を越えている。iPhone(スマートフォン)の機能とは、インストールするアプリの機能でもある。本数増加の歴史は、スマートフォン進化の歴史と一致すると言っても過言ではない。
しかし、アプリの質という面を支えていたのは、内蔵するプロセッサ、ディスプレイ、メモリ、バッテリーといった主要パーツの進化とともに、ユーザーインタフェースやスマートフォンの状態を知るセンサー類の進化や追加、それらの各種アプリによる応用アイデアの多様化であり、これがスマートフォンの適応範囲を広げていった。
すなわち、携帯電話という電子機器では最小限のデバイスを媒介役として、どこまでリッチな体験やコミュニケーションを生み出せるか。そこを創意工夫しながら高めてきたのが、iPhone以降のスマートフォンだったと言えるだろう。
しかし、そんなスマートフォン市場は先進国でピークアウトしており、今後は買い換えサイクルのさらなる長期化が進む可能性も高いとみられている。この問題はAppleだけでなく、スマートフォン産業全体のテーマだ。
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