VR(仮想現実)元年と呼ばれた2016年は、「Oculus Rift」や「PlayStation VR」など高性能なVR HMD(ヘッドマウントディスプレイ)が一般販売されたことで、個人でも没入感の高い仮想現実の世界を体験できるようになった。今ではスマートフォンを装着してカジュアルに楽しむ簡易なVRヘッドセットも多数販売されている。
さらに2017年末から2018年初頭にかけてはMicrosoftのWindows Mixed Reality(MR)、つまりMR(複合現実)の世界も一般ユーザーのもとにやって来る見通しだ。MRでは、現実世界にコンピュータグラフィックスを重ね合わせるAR(拡張現実)をさらに進化させ、現実世界と仮想世界を融合させたかのような体験を目指す。
その基盤となるHMD型Windowsデバイス「HoloLens」の国内ローンチに続き、Windows MR対応HMD(こちらの体験は既存のVR HMDに近い)の開発者向け販売も開始され、準備は着々と進められている。
気付けば、個人で頭にHMDをかぶって体験するVR、AR、MRといった世界は当たり前のものになりつつあるが、一方でテーマパークや展示会におけるエンターテインメント分野ではより大勢の人が同時にこうした体験を得られる仕組みの開発が進んでいる。
その1つが、米Walt Disneyの研究開発を担うDisney Researchが開発した「Magic Bench(魔法のベンチ)」だ。この仕組みを活用することで、例えば東京ディズニーリゾートで行列を作っているキャラクターグリーディング(キャラクターとの触れ合い)をよりリッチにしたような体験が、MRの世界で味わえるようになるかもしれない。
Magic Benchの概要は、Disney Researchが関連資料を公開しているが、YouTubeで動画も配信されているので、これをご覧いただくのが手っ取り早いだろう。動画ではベンチに座った人のすぐ近くに、3DCGで描かれたキャラクターが合成されて画面内を動くのだが、実際にその場にいるようで違和感がない。
この技術は、中心となるMagic Benchと名付けられた実際のベンチ(ちょっとした仕掛けがある)と、その前に配置されたMicrosoftの「Kinect」センサーを含む画像処理用のPC群、そして実際にAR・MRの世界を体験できるディスプレイの3つで構成されている。HMDを利用しないのがポイントだ。
頭にかぶるVR HMDやHoloLensでは一人称視点(First Person Point of View:FP-POV)でVRやMRの世界を体験するため、同じ空間や体験を他人と直接共有することが難しい。PCやHoloLens間でネットワーク通信を行って同一空間を共有することで、複数人が同じ空間に存在しているかのように認識させられるが、1人に1台のデバイスが必要だ。
また、この方法ではHMDをかぶるという手間がかかるため、例えばイベントのデモストレーションで活用しようとした場合、ユーザー1人あたりの占有時間が長くなり、回転率が悪くなって効率が低下するといった難点がある。同時に使えるデバイスの数が少ない場合、「同じ時間と空間を体験できる人数が限られる」というデメリットも大きい。これでは、ディズニーリゾートのような大規模なテーマパークのアトラクションに使いにくいだろう。
そこでMagic Benchの登場だ。同時に多人数が同じAR・MR体験を得る方法として、三人称視点(Third Person Point of View:TP-POV)で見られるディスプレイを用意し、これを通じて空間内の人物全員がインタラクティブなコンテンツを楽しめる方法を提供する。また、Magic Bench自体にも仕掛けがあり、触感を再現する振動機構「Haptic Actuator」を備えることで、視覚以外にも触感や音声を通じて疑似体験が楽しめるのだ。
Magic Benchのデモ動画では、登場するキャラクターに触ろうとしたり、あるいは何らかのアクションを示したりすると、それに対応して仮想空間のキャラクターが反応する。このインタラクティブ性がMagic Benchの現実感を高めている特徴の1つだ。
また、ずっと見ていると気付くが、人とキャラクターの位置関係が単純な二次元構造ではなく、ちゃんと三次元で空間が認識されていることが分かる。奥行きの情報を高精度に認識して、キャラクターが人物の後ろに回り込んだり、あるいは人物を切り抜く形で背景が大きく変化したりしているので、現実感が高まるのだ。
これはKinectが3Dセンサーで空間の深度を測定し、テーマやアクションに応じてリアルタイムでディスプレイに出力する画像を書き換えていることによる。そのため、より自然な映像体験が楽しめるのだ。
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