Microsoftが75億ドルで買収したGitHubとはどんな企業? 米国オフィスを訪ねて鈴木淳也の「Windowsフロントライン」(2/3 ページ)

» 2018年06月19日 10時00分 公開

GitHubのビジネスモデルとは?

 ここで「誰でも利用できるんだったら、GitHubはどうやって稼いでいるの?」という疑問を当然抱くだろう。GitHubは一種のフリーミアムなビジネスモデルを採用している。オープンソースプロジェクトのようなフルオープンなプロジェクトは誰でも無料で利用でき、Gitインタフェースを介してリポジトリにアクセスすることが可能だ。

 一方で、個人や企業がプライベートに行うようなプロジェクトを運用する場合、有料プランを通じて開放される機能を利用できる。プランの種類は、個別アカウントの「Developer(Personal)」、チーム単位で契約する「Team」、そして組織がサポート付きでフル機能を利用可能な「Business(GitHub Enterprise)」だ。基本的にはDeveloperやTeamで個別契約を取りつつ、法人向けにGitHub Enterpriseを販売して収益の柱とする戦略になる。

GitHub GitHubの有料プラン

 同社は「GitHubの財務状況は健全」と説明しているが、その詳細については公開していない。2017年8月に共同創業者で現CEOのクリス・ワンストラス氏が製品開発に注力することを理由に退任を発表しており、9カ月以上にわたって新CEO探しが続いてきたが、その背景にはビジネス的な行き詰まりがあるといううわさもあった。

 だが、Microsoftがいうように、GitHubが今後も独立企業体としての運営が保証されるのであれば、買収によるバックアップは大きな後ろ盾となる。

 ベンチャーキャピタルのような資本がスタートアップ企業に入る場合、資金回収の手だてとしてIPO(株式公開)や企業売却のような「Exit」の手段は必ずといっていいほど求められる。創業10年目のGitHubにとって、こうしたプレッシャーは経営陣に常につきまとっていたと思われ、未公開企業であるGitHubのIPOによる時価総額の引き上げが期待できない場合、いずれかの売却先を探す必要があったのではないか。

 Microsoftによる買収では、まずこの課題がクリアになるため、ワンストラス氏は当初の公約通り製品開発に注力し、新CEOにはよりマネジメントに適した人物がアサインされるというステップに移行できる。オープンソースの保護者としての地位を得るMicrosoft、後顧の憂いなく製品開発に注力できるGitHubとで、Win-Winの関係というわけだ。

MicrosoftはGitHubで培われる文化の保護者になれるか

 Microsoftによる買収に伴い、GitHubの新CEOにはMicrosoftデベロッパーサービス担当コーポレートバイスプレジデントのナット・フリードマン氏が就任する。2016年にMicrosoftが買収したXamarinの創業メンバーの1人だ。

 Xamarinは.NET Frameworkをベースとしたクロスプラットフォーム開発ツールで、モバイルOS(Windows 10 Mobile)を失ったMicrosoftにとって重要なピースとなっている。

 Xamarinの元となった「Mono」プロジェクトはもともとミゲル・デ・イカザ氏(現在はMicrosoft所属)が推進していたもので、同氏が当時所属していたNovellによって保護されていた。イカザ氏とフリードマン氏は友人で、Mono登場以前のXimianプロジェクトから交友関係があり、NovellによるXimianの買収によって、両氏がともにNovellへと移籍することになった。

 2011年にAttachmateという企業がNovellを買収した際に大規模な方針転換が行われ、それまでMonoに所属していたエンジニアらが一斉解雇されたことを契機として、両氏は同年にXamarinを起業した。その前年まで、フリードマン氏はNovellでオープンソースの技術や戦略担当役員を務めている。

 なお、フリードマン氏は学生時代にインターンでMicrosoftに所属していた時期があったようで、こうした一連の経緯を経てGitHubを支える屋台骨に任命されたとみている。

 MicrosoftによるGitHub買収の背景については、本連載でも紹介している他、Microsoftの公式ブログに加えて、GitHubの公式ブログでも「A bright future for GitHub」のタイトルでそのメリットをユーザーや関係者らに訴えている。また、フリードマン氏が自らRedditにAMA(Ask Me Anything)のスレッドを立てて、ユーザーからの質問に直接答える形で今後の両社について語っている。

GitHub Redditでナット・フリードマン氏が行ったAMA

 これだけ情報がそろった状況であえて付け加えるトピックはないが、MicrosoftにはGitHubで培われる文化の保護者として今後しばらくは機能することを期待したい。

 過去には、Novellのように数多くのオープンソースプロジェクトを取り込んだ上で企業買収によって大規模な方針転換が行われたり、あるいはSun Microsystemsを買収したOracleがオープンソース関係者の神経を逆なでするような行為を連発したりした例もある。だが、Microsoftは方針を堅持できるだけの体力と一貫した方針があり、あえて虎の尾を踏むような行為をすることはないと考える。

GitHub GitHubの最も活発なオープンソースプロジェクトがVisual Studio Codeであることはよく知られている。ちなみに、本原稿もVisual Studio Codeを使って書かれている

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