アバターフォーマット「VRM」は何を狙っているのか西田宗千佳の「世界を変えるVRビジネス」(1/2 ページ)

» 2018年12月28日 17時30分 公開
[西田宗千佳ITmedia]

 12月20日、ドワンゴなど国内13社は共同で、2019年2月に「一般社団法人・VRMコンソーシアム」を設立すると発表した。2018年4月に発表したアバター向け3Dフォーマット「VRM」の利用を促進し、フォーマットの内容をメンテナンスすることを目的とした非営利団体だ。これから賛同する企業を募り、2月より本格的な活動を開始する。

12月20日、VRMコンソーシアムの設立の準備が開始されたことが発表された。団体としての活動は2月からで、これから会員となる企業を集める
2018年12月20日の発表会のフォトセッションより。設立発起人となる13社(ドワンゴ、バーチャルキャスト、ピクシブ、IVR、XVI、S-court、クラスター、クリプトン・フューチャー・メディア、SHOWROOM、DUO、ミラティブ、ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン、Wright Flyer Live Entertainment)が一堂に会した。

 2018年、バーチャルYouTuberがブームになったこともあって、アバターを巡るビジネスは過熱気味だ。その中で公開されたVRMはどういうフォーマットで、コンソーシアムは何を狙っているのだろうか。

 本連載はVRのビジネスサイドの話題を語るもので、コンテンツについては主軸ではない。だが、VRMとそれを巡る動きは、一見コンテンツに見えるものの、まさに「VRの産業化」を巡る活動そのものである。ちょうど良い機会なので、VRMとその狙いについて分析しておこう。

VRMは「アバター向け」に最適化した「中間形式」

 最初に、VRMとは何かという、技術的な部分をごく簡単に解説しておきたい。VRMはOpenGLやOpen CLなどを管理する非営利団体であるKhronos Groupが管理するオープンな3Dフォーマットである「glTF」に、アバター向けに必要な情報追加と不必要な情報についての制約、さらには利用許諾などに関する情報を追加したものだ。

VRMのフォーマットに関する詳細は、GitHub上で公開されている

 3Dデータをやりとりするためのフォーマットは幾つか存在するのだが、「これで万能」というものはない。3Dデータといっても、過去と違い、形状だけがやりとりできても意味は薄い。テクスチャやアニメーションをつけるために必要なボーンなど、いろいろな情報が必要になる。背景やアニメーションを含めた「そのモデルがあるシーン」をやりとりするフォーマットが必要になっている。

 glTFはそんな状況を受けて作られたもので、オブジェクトの形・テクスチャなどの外観情報・アニメーションの情報・カメラの視点など、多岐にわたる情報を取り入れ、ネットサービス上で使いやすい形にしたもの、ということができる。VRMもその発展系だ。

 glTFもVRMも、最終フォーマットというよりは、各サービス間で利用するための「中間フォーマット」に近い。データ構造上、glTFやVRMを「編集ファイル」としてデータを作るには向かないのだ。

 これは、画像における「PSD」(フォトショップ形式)と「JPEG」、電子書籍製作における「docxやmarkdown形式」と「EPUB」の違いに近い。 データを製作するときはそれぞれのアプリが持つ専用形式で作り、データの交換・利用にglTFやVRMへ「書き出し」を行い、サービスやアプリで利用する時はglTFやVRMで読み込んで、またそれぞれのアプリ内部で使いやすい形式で利用する……と考えるのがいいだろう。

ポイントは「アバターの著作人格権」ルール作りにあり

 ポイントは、「なぜ VRMが必要なのか」ということだ。

 VRMはglTFをベースにしているので、単にモデルを交換するだけなら、VRMにできることをglTFで行うことはできる。逆に、VRMはglTFに制限も加えているので、glTFにできてVRMにできないこともある。

 具体的に言えば、「人型のアバター」と関係ないデータのやりとりはそもそもVRMに向かない。人型から大きく逸脱したボーン構造を持つキャラクターやアバターを扱うのも難しいようだ。

 だが、VRMを作った人々は、glTFがあれば終わり、とは考えなかった。「アバター」を扱うには、モデルデータ以外に考慮すべき部分が多数あったからだ。特に重要なのは、仕様許諾や形状データそのもの著作権上の扱い、「中の人」を含めた著作人格権の扱いなど、一般的なモデルデータ以外の部分である。

 キャラクターを扱うことになると、著作権上の問題は発生しやすい。コピーできる・できないという制御は当然必要になる。だがそれだけでなく、形状の変更を許すのか許さないのか、ということも必要だ。アバターでは「衣服」「髪形」の変更が求められる場合があり、そこへの対応を定めておく必要がある。

 それ以上にデリケートなのが、「中の人」との関係だ。アバターの中にはどんな人も入りうるし、どんな動きもできる。どんなアプリケーションでもできる。そのアバターの「中の人」に誰もがなっていいのか、アバター制作者の意図と離れた動きやアプリケーションでの利用をどこまで許すのか、という問題が出てくるわけだ。

 典型的な問題は、「アバターを性的なサービスで利用できるのか」ということがある。だが、ことはもう少し複雑だ。例えば、ゲーム内にアバターを持ち込み、自分が特定のキャラクターになりきって楽しめる、とする。そこで、「血みどろのゾンビもの」もOKなのか。スマブラのようなカジュアルな格闘ならいいのか。コミュニケーション系ならいいがゲームはダメ、逆にゲームはいいがコミュニケーション系はダメ、ということもあるだろう。

 アバターは、単に外観を持った3Dデータではなくなりつつある。それが生み出された背景・設定を含めた付加情報や、「中の人」が生み出す個性まで含めた多数の個性が付随する。アバターを流通するのであれば、その個性を尊重すること、すなわち、アバターの著作人格権にも配慮する必要があるのだ。これはあえてSF的な言い方をすれば、アバターの「人権の一部」ともいえる。

VRMコンソーシアム設立に関する記者説明会でのプレゼン資料より。アバターだからこそ「誰が」「どう使うのか」に則した新しい条件設定が必要になる

 今のVRMでは、クリエイティブ・コモンズに基づく一般的な利用ルールを埋め込み、それをサービス上で可視化することができるようになっている。だが、将来的にはそれだけでは不足する。だから、複雑になる権利条項を文章ではなく、ソフトウェアが自動的に解釈できる、マシンリーダブルな形で埋め込むフォーマットが必要になる。

 本質的にいえば、VRMとglTFの違いはここにある。

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