脇役だった製品がいきなり売れ筋に PC用品コーナーの裏事情牧ノブユキの「ワークアラウンド」(1/2 ページ)

» 2019年09月22日 06時00分 公開
[牧ノブユキITmedia]
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 PCの周辺機器やアクセサリー製品は、お世辞にも利益率が高くないことで有名だ。アクセサリー類に関してはハードウェアのような絶望的な低粗利ではないものの、お隣の文具業界などと比較すると「普通は原価にこれくらいのマージンを乗せる」という常識がひっくり返るような薄利で製品が卸されていたりする。

 実際には、卸業者を挟まずに家電量販店と直接取引を行うことで、きちんと利益は出る構造になっているのだが、他業界からPC用品メーカーに転職してきた人があまりの原価率の高さに驚き、将来性を危ぶんで早々に会社を去る事例もあったりするので笑えない。

 もっとも、低粗利でも回る体制故、他業界から仕入れた製品に標準的な利益を乗せただけなのに、元の業界よりも価格競争力のある製品が出来上がり、それがユーザーに受けたりするので面白い。今回は、PC用品コーナーおよびそのメーカーによる「薄利ビジネス」の事例を見ていこう。

他業界から仕入れて、他業界よりも薄利で売るビジネス

 月に何個、週に何個のペースで売れれば「売れ筋」と呼べるかは、その業界や品種によって異なる。他業界で回転率がイマイチという扱いの製品でも、どの品種も回転率が低いPC用品コーナーでは、高利益率・高単価なオイシイ商材と見なされることもしばしばだ。

 典型例といえるのが「電源タップ」。電源タップが多く陳列されているのは主に照明器具のコーナーだが、照明器具本体に比べると低単価で、かつ電球と違って定期的なリピートがあるわけでもなく、あくまでも“ついで買い”の域を出ない脇役という扱いだ。

 しかしこれをPC用品コーナーに持っていくと、そこそこ高単価でありながら回転率のよい商材という扱いになる。PCや周辺機器は売れれば売れるほど電源が必要になるため、商材としての相性もよい。

 さらに照明器具コーナーはメーカー間の競争が少なく、やや多めに利益を乗せていることが多い。それにより、メーカーが少し利益を削れば価格競争力が生まれ、かつ(PC用品コーナーとしては)高い利益率を確保できる優良製品に化ける。近年、PC用品コーナーで電源タップ売り場が面積を増やしているのは、こうした事情も関係している。

 また現在ではやや下火になったが、かつては電源タップなどとは比較にならないほど、値段を下げるとバカ売れする他業界発の製品があった。椅子、いわゆる「OAチェア」だ。

 デザイナーズブランドの高級チェアなどは除くとして、チェアは一般的に、テーブルや学習デスクのおまけとして扱われることが多く、特に専門店ともなると、単体で値引き販売されることは少なかった。つまりユーザーにとっては、チェア単体でお買い得な製品というのは、なかなか入手しづらい状況だった。

 そのため、家電量販店のPC用品コーナーで、PCラックのセールと称して隣にチェアを並べると、ラックは見向きもされずにチェアだけがバカ売れしていた。PC用品と比べると単価も高いため、特売のチラシに載った週には、PC用品コーナーの売り上げの大部分をPCとあまり関係ないチェアが占めるという、おかしな現象が発生していたほどだ。

 近年はネットの普及でチェアが配送料込みで手軽に買えるようになったこと、ノートPCの普及によってPCラックの市場がほぼ壊滅し、PC用品コーナーで売る名目が存在しなくなったため下火になったが(現在この商法はホームセンターでよくみられる)、これも先の電源タップと同様、他業界発の製品も売り方ひとつでPC用品コーナーでは稼ぎ頭になるという事例に他ならない。

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