“多少おトク”ではなく“超おトク”なセール情報はどこに流れているのか牧ノブユキの「ワークアラウンド」(1/2 ページ)

» 2019年11月17日 06時00分 公開
[牧ノブユキITmedia]
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 世の中に出回っているさまざまな品を、通常よりもはるかに安い価格でゲットしたいという心理は誰もが同じだ。こうしたお買い得製品の情報はニュースとしても価値が高く、Twitterなどでも度々目にする。

 もっとも、誰もが見られる情報を頼っても、ゲットできるのはあらかじめ大量に製品が準備された「多少はおトク」な製品だけだ。さらにレアかつ割引率が高い「超おトク」な特価品をゲットするには、会員制メルマガやLINEの公式アカウントなど、なるべく間口の狭い情報源に着目するのが大原則だ。

 一見すると告知方法としては効率が悪そうなこれらの情報源が、特価セールの告知に多用されるのはなぜだろうか。今回はこうした、特価品の告知をめぐる販売店側およびメーカー側の事情を見ていこう。

特価品情報が拡散されすぎると販売店やメーカーは困る

 会員制メルマガやLINEの公式アカウントなど、「閉じた」告知方法が多用される背景には、特価品の情報があまり広い範囲に拡散するのは、販売店にとってもメーカーにとってもあまり好ましくないという事情がある。

 例えばECサイトの場合、Twitterなどを経由してあまりに広い範囲に情報が拡散すると、想定した数量をはるかに上回る注文が殺到し、本来売りたかった一般客に届かなくなる。集客のために行ったはずのセールで上得意の客が怒って離れてしまうとなると、本末転倒だ。ネットならではの広範囲な集客が行えることが、逆にマイナスになってしまうわけだ。

 これはリアル店舗でも同様で、全国から客が殺到することはないものの、最近では人海戦術で組織的に特価品を買い上げられる例も増えている。本来の対象であった客に届かず品切れとなる上、大量の人が集結することで近隣に迷惑をかけるケースも出てくる。周囲に被害を及ぼすという意味で、ECサイトと違った意味で問題は深刻だ。

 上記は販売店側にまつわる事情だが、特価品を提供するメーカー側からしても、特価品の告知があまり広範囲に伝搬するのは望ましくない。なぜなら、ある製品が安価に売られていたという情報が広まりすぎると、たとえそれがスポット価格であっても通常価格のように扱われ始め、他の販売店で売れなくなるからだ。

 誤解するのが客だけならまだしも、販売店のバイヤーまでもが誤解して在庫分の補てんを要求してくることもある。その場合、間に入る自社の営業マンとももめることになり、後々まで禍根を残すことになる。

 本来これらはメーカー社内で営業本部などが稟議を受けてコントロールすべき事案だが、目が行き届かなかったり、あるいは営業マンが独断で先行したりした結果、公になったときにはすっかり「価格破壊」が終わっており、取り返しがつかなくなっていることもしばしばだ。

メルマガやLINE友だちなど「ひと手間」をかけるユーザーは上得意客

 こうした事情から、かつてネットのない時代には、過去に購入履歴のある客に郵送でセールを告知する手法がよく用いられていた。決して廃れたわけではなく、今でも業界によってはよく用いられているが、いかんせん購入時の登録情報がベースなので、新規の客を掘り起こす効果はない。

 一方、会員制のメルマガやLINEの友だち登録でユーザーとのパイプを作ってセール案内を送る方法は、新規の客を取り込むのにも向いている。読まれるかどうかは別にして、開封すらされない可能性もあるハガキや封書と違って、本人のスマホにダイレクトに届くという事情もある。

 過去に購入履歴がなくとも申し込めば資格が得られるため、ハードルは極めて低く思えるが、実のところ、メルマガ登録やLINE友だち申請などの「ひと手間」を自らかけるユーザーは想像以上に少ない。販売店の側からすると、そうして自分の意志でアプローチしてきた客は、購入履歴がある客と同等か、それ以上に積極的な客とみなされる。

 また実際には、それら母集団の中から上得意の客だけに絞り込んでセール情報を送ることもできるし、問題行動の多いユーザーを除外するのも容易だ。セールにあたって十分な商材を用意できなくとも、「過去に対象製品をお買い求めいただいた方限定」のように対象を絞り込むだけで済む。販売店にとってはなにかとメリットが大きい。

 またセールの全貌が外部からは把握できないことは、メーカーにとってもメリットがある。広範囲に伝搬しすぎてトラブルになる危険もないことから、メーカー側も安心して特価商材を提供できるというわけだ。

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