高品質・高コスパ・定番の三冠を狙う液タブ「Artist 24 Pro」をrefeia先生が試したよ!XP-Penの野望(2/3 ページ)

» 2020年07月17日 10時45分 公開
[refeiaITmedia]

タブレットとしての完成度は高い

 さて! そろそろ本題のタブレット性能ですね。まずは、問題がなかった部分を挙げていきます。

 オン加重は約7gで優秀、ワコム機のデフォルト値と同等か、かすかに軽いぐらいです。ジッターもペンを深く寝かせた場合にかすかに感じ取れるぐらいで、非常に優秀です。遅延も、Microsoft Paintでペン先が通った部分に線が出るまでが約120分の7秒で、これも劣っていません。

Artist 24 Pro ジッターテストの様子。深く傾けた時だけ、かすかにパターン状のブレがありますが、十分にジッターなしとして使えるレベルです。

 視差はCintiq Pro 24や同社の小型機ほど小さくはありませんが、大型機としてはOKと言えるレベルだと思います。ちゃんとした姿勢で画面を正面から見て描けば、主に筆を動かす範囲で困ることはないと思います。

Artist 24 Pro 芯が長いのも、ペン先周囲の視界が確保しやすくて地味ながらうれしい工夫です

 また、この写真からも分かるように、ペンを深く傾けたときにカーソルが傾けた側にズレてしまう問題は発生していません。過去にはProモデルでも発生していて、普通に描くときも困ることがあったので、こちらもうれしい改善です。

検知可能最大筆圧は残念な値に

 オン加重は優れていましたが、検知可能最大筆圧は約210gと、ワコムのプロペン2の半分未満となる、かなり低い値でした。XP-Penのペンは以前からこれくらいの軽めの過重で、筆圧値が最大になってしまう癖がありましたが、今回は改良されていませんでした。

 ちなみに、ボールペンでしっかりと文字を書くときの筆圧が200gや250gと言われていて、Microsoftの開発者向けドキュメントでも、筆圧は350gまで想定されています。

Artist 24 Pro Microsoftによる最適な筆圧カーブの解説図

 強い筆圧が頭打ちになりがちなのは、弱い筆圧の自然さよりも不都合に感じづらいとはいえ、余裕がある性能とは全く言えません。

筆圧8192段階の数字の意味は薄い

 私は今まで、筆圧が何段階だから優れている/優れていない、という言い方をできるだけ避けてきました。なぜかというと、センサー出力の細かさと実際の値の正確さは別の話だからです。すぐ分かる例をお見せしましょう。

ペンを下向きに立てて静止させています

 筆圧値がブレブレですよね? 数字を読んでみると、8192を100%としたときに約1.7%のブレ幅でした。これほど値が散らばっているのに、8192段階に相当する精密さで筆圧が取れている、と理解をするのは無理があります。

 これは、XP-Penのペンが劣っているという話ではありません。たまたまXP-Penの設定アプリが生っぽい値を見せてくれているだけで、ドライバやアプリで平滑化フィルターなどが入ってしまえば、筆圧値が多少ぶれていてもユーザーが察知するのは困難です。

 256段階や512段階のような、信号処理ですぐ飛び値になってしまう昔ならまだしも、今はもはや、8192段階だからワコムと同等だとか、○○のペンは4096段階だから劣っている、などと簡単に判断することはできません。単に8192という、そうそうたる数字だ、ということです。同じメーカーで段階が増えた時には、「ペンの世代が新しくなったんだな」とだけ理解するのが良いでしょう。

 というわけで、総合すると、検知可能最大筆圧がかなり劣っていることを除いて、全体的にしっかりとしたタブレット性能を持っていると言えます。斜め持ち時のカーソルズレが直っているのも好印象でした。問題の最大筆圧も、実用上は最大筆圧の頭打ちに当たりまくっていながらそのことに気づかなかったり、不都合に感じなかったりする場合が多いでしょう。

ディスプレイ性能もチェック

 さて、次はディスプレイの性能です。Artist 24 Proは、23.8型のWQHDディスプレイと、「90% Adobe RGB」を訴求しています。

 iPadや4Kのディスプレイが当たり前になってきた今となっては、2560×1440ピクセルは手が触れる距離で使うディスプレイとしてはかなり粗い部類に入りますが、約123ppiなので、ライバルのCintiq 22(約102ppi)と比べるとピクセル密度として1.4倍ぐらいで、差が分かるぐらいには細かいはずです。

Artist 24 Pro ドット感はありますが、意外と描いている間は気にしている余裕がありません

 また、CLIP STUDIO PAINTではいまだに4Kディスプレイにしたら表示が遅くなった等の悲鳴が聞こえてくるので、人によってはWQHDがベスト解像度なのかもしれません。とはいえ、高DPIの時代に乗り遅れたアプリのために、遅れたハードウェア仕様を良しとするというのは、うれしいことでは全くないですよね……。

「90% Adobe RGB」の謎

 次に発色についてです。見た時の実感としては、過去のPro付きモデルにあった色転び気味や青味がかった表示などが直っていて、全体的に印象が良いです。

 ただし、90% Adobe RGBというのは2つの面で意味不明です。1つが、カバー率か面積比かを示していないこと、もう1つが、面積を求める尺度がCIE 1931なのかCIE 1976なのか、もしくはそれ以外なのかを示していないことです。耳慣れないかもしれませんが、これで大きく違ってしまいます。

Artist 24 Pro 仮にsRGBの色域ぴったりのディスプレイを想定したときの、Adobe RGBカバー率です。74%と書くのが一般的ですが、85%と書いても、一応、ウソではありません

 99%ぐらいなら、どちらにしてもほぼ重なっているということですし、それならまあ……となりますが、これくらい離れていて明記されていないのは、仕様値を雰囲気で書いてしまっているということです。

 ちなみに、色域と言った場合に圧倒的に見かける頻度が高いのがCIE 1931の方です。2台の異なるメーカーの測色機で本製品を測ったところ、CIE 1931でのAdobe RGBカバー率は、80%台前半ぐらいでした。

 見る限り、本機のディスプレイ自体は良い物に見えます。ですが、仕様の表示の仕方には色に無頓着だった昔からの癖がまだ残っています。また、AdobeRGBでもなく、sRGBをシミュレートするモードもなく、カラープロファイルも配布されていないので、製品単体では正確な発色を得る方法はありません(設定アプリに「sRGB」ボタンがありますが、色温度が変わるだけです)。

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