高品質・高コスパ・定番の三冠を狙う液タブ「Artist 24 Pro」をrefeia先生が試したよ!XP-Penの野望(3/3 ページ)

» 2020年07月17日 10時45分 公開
[refeiaITmedia]
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実描!

 よし! では描いていきましょう。今回、実は仕事に数日間使って使用感は十分に得ているので、いつもの絵を示しながら各工程の感触を述べていこうと思います。

 まずはラフからです。このレベルの液タブで、ここでつまずくことはもはやないですね。反応も良く、素早くグチャグチャと描いてもついてきてくれます。普段メインにしている16型だと何だかんだで手狭ですし、20型以上だと伸び伸びと描けたり余った空間に資料を置いたりできるのが良いですね。

Artist 24 Pro とにかく広いです。正直、イラスト1枚のためだけに使うと持て余すほどです

 WQHDの画面解像度は、普段4Kをメインにしているとどうしても粗く見えてしまって気分が良くないですが、それで作業効率が落ちるかというとそうでもなく、割り切ってしまってもいいポイントだと思います。ただ、Photoshopでキリの悪いズーム率で表示したときのボヤケの被害が、4Kより大きいのは気になりました。

 タッチ非対応なのは、自分の利用スタイルだと絵を描いている間に困ることはほとんどないですが、一般用途のPCとしては普段からタッチ多用派なので、操作の効率が低下してしまいました。

 次に線画、これも良いです。表示を損ない過ぎない程度の薄いマット面は安定した摩擦をもたらしてくれます。また、過去のモデルにあった、ペン先が少し沈んでから何かに当たって、そこから筆圧が出始めるような奇妙な感触はほとんどなくなっています。ペンの傾きでカーソルがずれる現象も直っています。過去モデルのように、これらの点が気になって集中が切れることもなくなりました。

Artist 24 Pro 筆圧をかけた時に滑りやすいのは少し気になりました

 ただし、一貫性はあると言っても摩擦は小さく、滑りやすいです。Cintiq Proのようにフェルト芯のような選択肢もありません。もう少し強い摩擦があれば線を安定させやすいのにな、と思う場面は何度もありました。

 彩色は、詰まる場面はありませんでした。軽い筆圧も使いやすく、普段の環境と同等のペースで塗っていけます。

 検知可能最大筆圧が低い点については、自分の主な製作スタイルの中で困る場面はありませんでした。ただし、例えば下の絵のように、ブラシ設定を変えないまま極めて軽い筆圧で細い線、重い押し込みでべっちゃりと太く、といった感じで楽しく描くようなスタイルには対応できません。

Artist 24 Pro 細い線から太いベタまで、ペンを変えずに描いています。たぶん300g以上ぐらいまでは使っているはずです

 また、ボタンやダイヤル類も活用してみようと思いましたが、キーマクロの登録時に装飾キーがキーストローク全体に掛かってしまう仕様が直っていないのが残念でした。問題なくできる操作もありますが、例えばPhotoshopで多用する「Ctrl+Shift+N→Alt+P→Enter」のように、途中で装飾キーが変わるキーストロークを再現できません。

まとめ

 さて、ではそろそろまとめていきましょう

気に入った点

  • モダンになってきたボディーデザイン
  • USB Type-Cでの接続
  • 調節範囲が広く、便利なスタンド
  • 4Kより操作にサクサク感のあるWQHD解像度
  • 比較的素性の良いディスプレイ
  • ほとんどの点で問題ないペン性能と、安定した摩擦
  • 大量のボタンとダイヤル
  • カーソルズレ/ペン先の沈み込み/怪しい発色など従来の弱点がいくつも直っている
  • VESAマウント対応

難点になりえる点

  • タッチ非対応
  • 4K液タブやiPadなどと比べてドットが目立つ
  • 検知可能最大筆圧が小さい
  • 摩擦が小さく、選択肢や工夫の余地があまりない
  • 追加の費用や手間をかけないと正確な色で製作することができない
  • 設定アプリに不審な動作や仕様の不足が若干残っている
  • 表面にあるディスプレイ面とボディーの隙間(友人いわく、腕のアカがたまるとのこと)

 Artist 24 Proは、約10万円とXP-Penの中では高額ながら、大型で質の良いディスプレイとペンを搭載しています。過去のモデルにあった弱点がいくつも解消しているので、買って後悔するということが少ないモデルになっています。業務用途においても、カラーマネジメントの面倒を見られるユーザーならば、ハイエンド機よりも目立って品質や効率が低下するといった事態にはなりにくいでしょう。

 本製品はCintiq 22と並んで、大型で品質を重視した高コスパ機の鉄板モデルの1つと言っていい仕上がりになっていると思います。Cintiq 22の優れている点は、ハイエンド機と同じペン、設定やカスタマイズの豊富さと完成度、箱から出してすぐ「概ね標準準拠の発色」という想定で使えること。本機の優れた点は、サイズと解像度、接続仕様、ハードウェアボタン、sRGBより広い色域(正しく使えば)です。

Artist 24 Pro

 いやー、何度でも言いますが、本当に良い時代になりました。多くの人にとって十分以上の液タブです。それがこんなに安く買えます。ただし、くれぐれも忘れないでおきたいのは、十分とは……という点です。

 「普通の人はそんなこと気にしないですよ」「ほとんどのユーザーには十分な性能です」と言います。まあ、そうです。でも普通の人って何ですか。ほとんどのユーザーって何ですか。みなさん、将来の夢が「平均的な絵師」とか、そんなじゃないですよね?

 確かに、4Kはいらないかもしれません。最大筆圧も使わないかもしれません。発色もこれくらいの差なら神絵は神絵のままです。でも、細部の表現や質感への異常な執着、ダイナミックで不思議な運筆、針の穴を通すような色選び──そういう類のものが、その人の個性や強み、絵師を「ある1人の絵師」たらしめる要素のはずです。

 買い物は常にバランスですし、本機はお勧めしやすい、極めて良いディールです。それでも、これで十分という判断は、メーカーもユーザーもですが、ある可能性を捨てる判断そのものだということを忘れないでおきたいです。

 つまり、もっと高いモデルを出してくれてもいいのよ、ということです。よろしくお願いしますね(安いモデルもお願いします)。

……なんでしょうこの最後の説教みたいなやつ。自分で書いていて、耳が痛いし心も痛い!

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