エレコムが半固体電池を採用した“次世代モバイルバッテリー”に挑んだ理由(2/3 ページ)

» 2026年02月25日 12時00分 公開
[渡辺まりかITmedia]

エレコムが“定義なき”半固体電池に挑んだ理由とは?

 エレコムでは、2025年3月に安全性の高い世界初となるナトリウムイオン電池を採用したモバイルバッテリー「DE-C55L-9000」を展開しているが、なぜ(半固体電池とはいえ)リチウムイオン電池を採用した製品を発表したのか。

 田邉氏はモバイルバッテリーに起因する近年の火災事故増加について触れた。「総務省のデータによれば、2025年上半期にリチウムイオン電池から出火した火災事故550件のうち、194件がモバイルバッテリーによるものだった」と解説する。

エレコムの田邉明寛氏(商品開発部 コンダクションデバイス課) エレコムの田邉明寛氏(商品開発部 コンダクションデバイス課)
モバイルバッテリーに起因する事故 モバイルバッテリーに起因する事故件数

 このような事故が話題になる前の2022年には、安全性を優先したリン酸鉄リチウムイオン電池を採用した製品を、そして2025年にはナトリウムイオン電池を採用した製品を世に送り出してきたが、これらの製品は「エネルギー密度が低く、同じ容量でもサイズは大きく、質量は重くなってしまい持ち運びたくないと感じるユーザーが多かった」(田邉氏)という。

重い 安全でも重くて大きいと持ち歩きたくない。つまり普及の足かせになってしまう

 そこで同社が出した答えが安全性と携帯性をバランス良く組み合わせた「半固体電池」というわけだ。

半固体 半固体がその答えとなった
半固体にすることで持ち運びやすくなる 半固体電池を採用することで持ち運びしやすくなる
その理由 その理由は1mAhあたりの体積や重量が、従来のリチウムイオン電池とほぼ変わらないからだ

 しかし、開発にはいくつかの壁があった。1つは半固体電池に明確な業界統一の定義が存在しないことである。

 「他社から準固体、半固体電池が登場しているが、業界内にそれらの定義が存在しておらず、液体と全固体の間にある半固体と準固体のどちらで表現するかすら定まっていなかった」と田邉氏は説明する。

定義がない 業界内に定義がなかった「半固体電池」

 そこで、エレコムは独自の「半固体電池の定義」を策定することにした。その1つは「電解質の状態がゲル状であること」、もう1つは「エレコム独自の厳しい試験を実施し、従来のリチウムイオン電池と比較して安全性が高いと証明されたものであること」だ。

エレコムで定義 そこで、エレコムは、自社で開発する半固体電池について定義付けを行った

 そのため、モバイルバッテリーの落下を想定したくぎ刺し試験や、ズボンのポケットに入れたまま座ることを想定した圧壊試験などを行った。

安全試験 疑似的にショートする状況を作り出し、安全確認の試験を行った
くぎ刺し試験の様子。通常のリチウムイオン電池では刺した直後に爆発炎上しているが、半固体電池ではそれが見られない
圧壊試験の様子。通常のリチウムイオン電池では、圧力をかけると火花が飛び散り、直後に燃え上がるが、半固体電池では変化がない

 エレコムはもともと、本製品を2024年秋頃に開発に着手し、2025年秋頃から12月にかけては販売を開始する予定であった。しかし、「安全性の担保ができなかった」として、今日の発売までずれ込んでしまったという。

 同社は、工場を持たないファブレスメーカーのため、自社製品の製造にふさわしい電池工場を探す必要もあった。他社で採用実績のある電池工場を含め、いくつもの工場へ赴き、監査を実施したが、同社の安全基準に届かなかったという。

 また、採用する電池を決め、金型も完成した状態で再度試験を行ったところ、従来のリチウムイオン電池との安全性の差異がほとんど見られなかった。そのため、採用電池の変更から設計、評価、金型作成に至るまで一からやり直したことも、開発が遅れた要因だという。

遅れた理由 ここまで行ったものの、ほぼ完成形になったところで、従来のリチウムイオン電池との安全性の差がほとんど見られないことが発覚してしまった

 しかし、そのかいもあり、厳しい条件で試験しても発火しない電池にたどり着くことができた。

当初より安全 製品に採用予定だったものより安全性の高い電池を探し出して採用することで、より安心できる半固体電池モバイルバッテリーが完成した

 「電池だけでなく、完成品となるボディーでも試験を行った。くぎを刺して刺して刺しまくった」と田邉氏は振り返り、次のように強調した。

 「くぎを刺した直後だけでなく、数日してから変化して発火することもあるので、放置しても問題のない電池を採用した。言葉だけの半固体ではなく、物理的かつ化学的に安全性が担保されたものしか出さない」(田邉氏)

改善し続ける 工場側の評価をうのみにすることなく、これからも社内エンジニアによる安全チェックを行い、安全性を担保する

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