営業の意識改革をiPhoneで――光世証券に見るスマートフォン企業利用の姿(1/2 ページ)

» 2009年12月16日 14時48分 公開
[日高彰,ITmedia]
photo 大阪・北浜の金融街にある光世証券本社

 大阪に本社を置く中堅証券会社・光世証券は、今年春よりすべての営業担当者と幹部社員がiPhoneを持って仕事をしている。iPhoneの法人導入ケースとしては比較的早期の事例だ。単にコミュニケーションの効率化を図るだけでなく、業務に向ける意識そのものの変革を期待して導入した同社では、少しずつその効果が見え始めているという。導入を担当した同社システム開発チームの石川卓也氏、権藤信明氏にiPhone採用前後の経緯を聞いた。


photophoto システム開発チーム次長 石川卓也氏(写真=左)と、システム開発チーム 権藤信明氏(写真=右)

iPhoneで社員の意識改革をしたい

 光世証券は、大阪の金融街・北浜で1961年に設立された独立系の証券会社だ。創業者の巽悟朗氏(故人・前社長)はかつて大阪証券取引所の理事長、同取引所の株式会社化に伴う初代社長を努めており、在阪証券会社として存在感のある企業である。

 システム面から見ると、特定の金融グループに属していないことから、業務システムを自社で開発しているという点が特徴になる。開発・運用の負担は大きくなるが、グループ全体のシステム投資の方針やタイミングに振り回されることがないため、機動的な商品・サービスの投入ができるメリットがある。

 モバイル端末を導入するきっかけとiPhoneを選択した理由について尋ねると、権藤氏の口からは、「業務効率化」「生産性向上」といった言葉よりも先に「営業担当者の意識改革」というフレーズが飛び出した。

 全国区の大手証券会社とは異なり、同社は大阪という地場に根差していることから、広くあまねく多くの顧客との間で取引を広げるのではなく、富裕層を中心とした得意先にフォーカスする戦略をとっているという。このため営業効率は高いが、一方では、担当者が顧客の元へ出向いて対面で話をするという、昔ながらの営業スタイルから抜け出せないという課題があった。

 このような環境のため、営業担当者と得意先の個別の関係は強固だが、業績は各担当者の“個人プレー”に負うところがほとんどで、有効な営業ノウハウの共有など、社員間の横の連携があまりとれていないという問題もあった。そこから、モバイル機器の導入という考えが生まれた。

 「会社にいる間は話ができるわけですが、3時になって取引所が閉まるとみんな外回りへ出て行きますから、後はバラバラ。それをつなぐネットワークになるものが何かないか試行錯誤していたときに、iPhoneのような端末がポンと出てきたので『まさにこれだ!』とすぐに飛びつきました」(石川氏)

 導入にあたってはiPhone以外のスマートフォンも検討したが、早い段階で候補はiPhone一本に絞られたという。理由は、「圧倒的に操作性がよかった」(権藤氏)こと、そしてWebサービスとの連携やアプリの追加などによって導入後も広がるポテンシャルだという。「iPhoneには多数のアプリケーションがありますが、例えば、そのようなアプリをいかに営業活動に活用できるかを各担当者が考える。そういった意識を持ってもらうことを促したかったんです」(権藤氏)

証券営業にとって必須のアプリとは

 証券会社での導入ということで、よく使われているアプリには特色がある。例えば、証券会社の営業担当者が四六時中気にするのがニュースだ。テレビや新聞、Webサイトなどで報じられるニュースに対して、マーケットは極めて敏感に反応する。会社でPCの前にいるときはいつでもニュースを見ることができるが、従来は会社を出ると最新のニュースをリアルタイムにチェックする方法はなく、担当者によっては自分の携帯電話でニュースサイトを見る人もいるといった具合に、各自の工夫にゆだねられていた。

 iPhoneならWebで提供されているニュースをPCと同じように、しかもどこでも見られるだけでなく、サイトによっては独自のアプリを提供しているためさらに見やすい形でチェックすることが可能だ。特に、マーケット情報に強いサイトでは株や為替の値動きを知るのに便利なアプリを用意していることが多い。光世証券の社員の間では、ニュースや株価では「Bloomberg」がよく使われており、大証FXのサービスを提供していることから「Simplex FX」も必須アプリになっているという。

photophoto 「Bloomberg」(写真=左)と「Simplex FX」(写真=右)

 また、担当者によっては厚さ数センチにもおよぶ「会社四季報」を持って外回りに出ることもあったというが、これがiPhoneのアプリになったことで格段に持ち運びしやすくなった。単に本の重みがなくなったというだけではなく、マイナスの数字は赤字で表示されたり、各企業のWebサイトへのリンクがあるので最新の情報をチェックできたりと、機能面でもメリットが大きい。この四季報アプリは会社費用で全員に配布することも検討しているという。

 同社ではアプリのインストールをはじめ、YouTubeやiPodなどエンターテインメント系の機能も含めて、一切の機能制限は加えていないという。一般論としては、ゲームが自由にできてしまうと生産性が落ちてしまうので禁止すべきと考える管理者もいるようだが、今回の場合、営業担当者への導入のため、サボればその分自分の成績に跳ね返ってしまうわけで、iPhoneをどのように使うかは完全に各ユーザーにまかされている形だ。

 これは「意識改革を促す」という導入目的にも沿っており、管理者が使い方を強制するのではなく、各自が自由な発想でiPhoneを活用し、そこで得られたノウハウを他の社員にも広げるという展開を行っている。インストールしたアプリなどの利用動向は定期的に調査し、社員が共通して利用できるものについては全ユーザーに周知しているという。

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