見えぬ「選択と集中」、迫る「タイムリミット」 ウィルコムは再生できるのか:神尾寿のMobile+Views(2/2 ページ)

» 2010年02月22日 09時00分 公開
[神尾寿,ITmedia]
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 周知のとおり、モバイル市場における次世代ブロードバンド競争はすでに始まっており、ワイヤレス分野においてはモバイルWiMAX陣営が先行している。UQコミュニケーションズの契約者数はいまだ6万3600契約(2009年12月時点)と多くはないが、2009年末から同社のエリアは都市部を中心に飛躍的に改善されており、UQ WiMAX(モバイルWiMAX)対応機器も増えている。そのため今年のUQ WiMAXはかなりの伸びが期待できる。また、モバイルデータ通信市場全体に目を向ければ、3.5Gの通信インフラを使うイー・モバイルやNTTドコモの躍進も見逃せない。XGPの展開がもたつく中で、ライバルは貪欲に新規需要を獲得している。

 そして、その先に控えているのがLTEだ。LTEの本格展開が始まるのは2011年から2012年頃と計画されているが、ここに参入するのがドコモやKDDIなど資本力がある大手キャリアであることを鑑みれば、ウィルコムのXGPはこの頃までにエリアやサービス面で先行優位性を築いておかなければならない(これはUQコミュニケーションも同様である)。

 今後、ウィルコムの支援企業がどのような判断をするかは不分明であるが、いずれにせよ、XGPに残されている時間はそれほどない。スピーディなエリア展開と、低コストで実現可能な対応端末の普及策と、それによる新市場の開拓が求められる。これは、かなり困難な舵取りになるだろう。

 ほかにも、今回の再建にむけたビジョンには首を傾げる部分が多かった。社員の人員整理はなく、当面の契約増の取り組みは、マーケティング投資の再開や割安な料金プランで新規顧客を狙うといったもの。コストを削減し、収益力を増すための具体性のある計画は出てこなかった。むろん、現在のウィルコムはパートナーに支援を要請している段階で、うかつな事を言えないという事情は分かる。しかし、誤解を恐れずに言えば、会見でのウィルコムの姿勢には、事業再建に向けて「選択と集中」を積極的に推し進めていく覚悟が見えなかったのだ。

“ナローバンド”は柔軟な料金設計が鍵

 厳しい意見を書いたが、ウィルコムに再生の道がないわけではない。記者会見で、久保田氏が度々述べた「ナローバンド(低速通信)」の特性を生かした新市場創出と、そこでのビジネスでは、ウィルコムが優位に立てる可能性がある。

 特にPHSの特性を活用できるナローバンドのデータ通信市場創出への取り組みは注目だ。車載通信や遠隔監視システム、トレーサビリティなどの組み込み市場では、高速通信はさほど必要ではなく、むしろ低価格や安定性、低電磁波が求められている。PHSにとって戦いやすい市場といえる。さらにウィルコムは組み込み(M2M)市場の開拓に着手しており、多くの導入事例を持つ点も有利なところだ。

 例えば2010年2月には、本田技研工業が、注目されているハイブリッドカー「CR-Z」から、同社のテレマティクスサービス「インターナビ」でウィルコムの通信端末を標準採用した「リンクアップフリー」プランを発表。これによりユーザーは基本料・通信量を負担することなく(※)、高度な渋滞情報サービスやエコドライブ支援などの、インターナビのサーバサービスが利用できる。

※ホンダのリンクアップフリーの適用は、新車購入後、ホンダ系正規ディーラーで車検を受けることが条件になる

 クルマとクルマ周辺のビジネスやサービスでは、通信ソリューションの活用が重要なテーマになっている。この市場は今後さらに拡大するため、ウィルコムが「ナローバンドだが、低コストかつ柔軟な価格設定」を武器にシェアを拡大する余地は大いにあると言えるだろう。もちろん、クルマ以外の分野でも、安心・安全分野や各種トレーサビリティ市場など、M2M市場では、ナローバンドでも価格設定次第で優位性を保てる分野は多い。重要なのは、ウィルコムがこれらの新興市場のニーズに合わせて、フットワークよく、また柔軟に料金体系の設計ができるかどうか、だ。それを実現できれば、M2Mという“もうひとつのデータ通信市場”で同社がキャスティングボートを握るというシナリオも考えられる。

 一方、久保田氏が提示した「ナローバンドの音声市場」であるが、こちらでの競争はかなり厳しいものになると筆者は考えている。確かにウィルコムは、過去に音声定額サービスで他社に先駆け、“音声サービス”があらためて商品力になることを示した。だが今は当時と違い、ソフトバンクモバイルやau(KDDI)でも条件付きでキャリア内の音声定額サービスを用意している。個人の2台目需要、そして法人需要ともに音声定額サービスだけでソフトバンクやauに対抗するには、ウィルコムの商品力や営業力、サポート力は弱いと言わざるを得ない。

 この市場でウィルコムが復活するには、音声端末と料金プランをしっかりと見直し、他社が追随できない形で「選択と集中」を行う必要があるだろう。さもなくば他社との消耗戦に引きずり込まれる恐れがあり、筆者はこのリスクがかなり高いと見ている。基本料のあり方や支払い方式の部分で工夫を凝らし、既存の3Gキャリアが真似できない“ウィルコムらしさ”をしっかりと打ち出せるかが、この市場で同社が生き残れるかの鍵になりそうだ。

次の10年に向けた「ウィルコム再生」を

 過去15年を振り返ると、ウィルコムが日本のモバイル市場に果たしてきた貢献は、けっして小さくない。今の携帯メール(ショートメッセージ)文化につながる流れを作ったのはDDIポケットの「Pメール」であるし、2000年代に入ってからは「データ通信サービス」「音声定額サービス」「2台目需要」や「法人市場の開拓」、そして「カーナビゲーション向け通信サービス」など、同社は新興市場を生みだす先駆けになってきた。とりわけ2005年以降は、ウィルコムが新規市場を開拓すると、そこにソフトバンクモバイルやイー・モバイルが参入して急速に市場が成長するという流れができていた。業界4位というポジションではあるが、ウィルコムは国内モバイル市場の進化と発展に欠かせないパイオニアであったのだ。

 今回の会社更生手続きの開始によって、一時的にウィルコムのブランドイメージは落ちるだろう。またモバイル市場全体の成長スピードが上がり、一方で競争環境が厳しくなる中で、彼らの再建に向けた道筋が“いばらの道”になるのは紛れもない事実だ。しかし、そのような状況だからこそ、ウィルコムは現在のビジネスを仕分けし、現実を直視して事業の「選択と集中」を徹底してほしい。そして次の10年の成長領域に効果的に投資することで、フットワークがよく、骨太な財務体質をもつキャリアとして復活してもらいたいのだ。ウィルコムの再生を、期待をもって見守りたい。

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