技術に「希望を見いだしたい」――「東のエデン」神山監督×セカイカメラ井口氏:サイエンスフューチャーの創造者たち(2/3 ページ)

» 2010年05月21日 08時00分 公開
[ITmedia]

「日本人よズボンを脱げ」

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井口氏 今日の対談でうかがいたいと思っていたことがあって、それは、滝沢のような人間になりきることに、日本の可能性があるんじゃないかということ。滝沢の姿に僕自身すごく共感したんですが、神山さんはあのキャラクターにどんな思いを込めたんでしょうか。

神山氏 まず思ったのは、今の時代には“主人公たり得る人”がいないということです。人々の代表になるってことが貧乏くじであるという感覚が、国民全体の身に染みついちゃっている。例えば、我が国の総理大臣になりたいと思う人っていないじゃないですか。これはものすごく悲しいことですよね。

 けれど、少なくとも僕が高校を卒業するぐらいまでは、自分の周りにも末は博士か大臣かと言われるような、満場一致で生徒会長になるような人間がいたんです。そういう人間が、社会に出るといつの間にか埋もれてしまっている。そんな社会でいいのだろうかと。

井口氏 ある意味、国全体の空気で曖昧なままつぶされちゃうんでしょうね。

神山氏 そうですね。なので、せめて物語の中ぐらいは、そういう人間を登場させたいと思い、滝沢が生まれました。それで、もし滝沢のような人間が好かれないような世の中だとしたら、もう絶望的である、と思ってましたね。

 彼は、状況がいかんともしがたくなったところに飛び込んで、周囲を連結する媒介者となって物事を解決していくという、一番損な役回りを引き受けます。そういうキャラクターは宮崎駿さんがナウシカを発明して以降、女性のキャラクターとしては成り立っていましたが、僕はそれを男性キャラで世に問うてみたかった。ただ、同じことを男でやると必ず嫌われてしまうんですね。ケンカも強くて頭もいいという「最初から全部持ってるヤツ」は嫉妬の対象になってしまうんです。

 なので「全裸」(※)という、あとは逮捕しか残されていないような最悪の状態から、はい上がってくる姿を描くことで、見ている方に共感してもらおうと思いました。結果からいうと、あの作品の人気は滝沢の魅力による部分も大きくて、まだまだ世の中捨てたもんじゃないなと。出る杭を打とうと目を光らせている人間がたくさんいる中でも、彼みたいなヒーローの登場を渇望しているところがあると分かって、ほっとしました。

(※)滝沢はホワイトハウスの前で記憶を失い、全裸で片手に拳銃を持った状態で登場する。また、作品では失踪した2万人のニートが裸で登場するシーンもある。

井口氏 なるほど。全裸という演出には僕もガツンとやられてしまいました。

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神山氏 プロデューサーと「世の中を先導するような人間はどんなヤツだろう」と企画を練っていたときに、「多分そういう人間は、渋谷のスクランブル交差点に全裸で放り出されても、5分後には自力で靴と服を手に入れているようなヤツだよ」と僕が言ったんです。泣いて交番に入るような人間じゃ、多分世の中を変えられないだろうと。

井口氏 2万人のニートが裸で登場するのも絵的にスペクタクルだったのですが、あの裸は滝沢の裸と違う意味がこめられているのですか?

神山氏 最初は裸というよりは「ズボン」と言っていたんですけど、どういう意味かというと、人間って上着がなくても何とかなるんですけど、ズボンを取り上げられた途端に何もできなくなりますよね。なので、2万人のニートを外に連れだして、ネットを取り上げて、ズボンも取り上げる。1回そこまでやらないと、彼らは聞く耳もたないんじゃないかと考えていたんです。ズボンを取り上げられた状態から再スタートすることが、ひとりひとりのポテンシャルをもう一度上げていくために必要なんだと。

 それで、そういうズボンの考え方のなごりが、板津君に反映されています。彼はズボンが飛び去っただけで、すべてのアイデンティティーを喪失してしまった。

井口氏 あれは最高ですね! 僕も大学が京都で、やっぱり板津君のような人間が周りにいたんです(笑)。しかも板津君は押し入れの中に世間コンピューター(※)なんていうとんでもないものを持ってる。あれにはハートをわしづかみにされました。

(※)未来を予測できるコンピューター。ズボンが風に飛ばされたことをきっかけに京都のアパートに引きこもった板津豊が開発した

神山氏 作家の森見登美彦さんとたまたま知り合いになって、京都の大学生の生態なるものを聞いてみたのですが、彼らにはある種の全能感があったようなんです。後ろ向きだったり、謙虚だったりもするのですが、ベースには根拠のない全能感がある。だから上から目線なんでしょうね。そこで、じゃあその根拠のない全能感を一旦喪失させるために何が一番有効かと考えると、「ズボンだ!」と(笑)。あれほど上から目線だった板津も、ズボンを失うことで外に出ることすらできなくなります。もちろんそれは、ズボンがないという実質的な問題もあるのですが、ズボンが彼のプライドの象徴でもあったわけです。転じて考えると、若者からズボンを奪った状態で外に放り出すことで、彼らはゼロにリセットされて、そこからもう一度“ライフ”を取り戻せるのではないかと考えたわけです。

井口氏 日本人よズボンを脱げと(笑)

神山氏 本当にそう思います。脚本の執筆中に「ズボンを捨ててしまえ」とよく言ってたんです。そっからもう一度立ち上がってくれば、一回りも二回りも大きくなれると思います。

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