風力と「潮力」を1台で兼ねる発電装置、佐賀県沖で起動へ自然エネルギー

三井海洋開発は佐賀県と協力して、海上で発電可能な新技術の実証実験を開始する。洋上風力と潮力を1台の装置で兼ね備えており、複数の海洋エネルギーを取り込むことが可能だ。

» 2013年05月20日 09時00分 公開
[畑陽一郎,スマートジャパン]
図1 実証実験の立地

 海に恵まれた日本。海から得られるエネルギーには大きな可能性がある。洋上風力はもちろん、波力、潮汐、潮流、海流、海洋温度差など、海水からもさまざまな再生可能エネルギーを抽出可能だ。ただし、国内の研究開発はかならずしも進んでおらず、個別のエネルギーをなんとか取りだし、実用化しようとする努力が続いている。

 佐賀県が協力し、三井海洋開発が進めるプロジェクトはひと味違う*1)。洋上風力と潮力を1つの装置から同時に得ようという野心的な試みだ。

*1) 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の海洋エネルギー発電システム実証研究 の共同研究である。

 日本海南西部の玄界灘で2013年秋から実証実験を開始する(図1)。佐賀県呼子町の加部島北西海域が有力候補地だ。風況や海水の流れ、海底地質などの条件がそろっているのだという。

 海洋エネルギーの開発は、漁業との共存が前提だ(図2)。佐賀県は2011年度から地元の玄海漁業協同組合連合会、漁業組合との協議、調整を始めている。今回の立地も漁業者からの推薦によるものだという。2012年度には漁業者代表を会長とした海洋再生可能エネルギー協議会を設置している。

図2 海洋エネルギー開発の立地。出典:佐賀県

浮体構造物で発電

 三井海洋開発は、浮体式海洋石油・ガス生産貯蔵積み出し設備(FPSO)を主力製品とするなど、浮体構造物に強い。ただし、発電技術ではまだ実績がほとんどない。「今回実証実験を始める浮体式潮流・風力ハイブリッド発電は、これまで縮小モデルなどでの研究を続けてきており、実機がまだ1台しかない状態だ」(三井海洋開発)。

 三井海洋開発の発電プラットフォーム「[skwíd]」は、同社が一から設計した(図3)。水面に垂直に浮かび、海底とは複数のケーブルで係留する形だ。海底に固定されてはいない。水面上の高さは約50m、水面下の深さは約20mある。

図3 浮体式潮流・風力ハイブリッド発電プラットフォーム [skwid]。出典:三井海洋開発

 [skwíd]には水面上にダリウス風車が、水面下にはサボニウス水車が付いており、これらの運動を電力に変える。図3にある海面上の白い骨組みのようなものがダリウス風車、黄色い浮体の下部にある灰色の円筒がサボニウス水車だ。「風の強さなどさまざまな条件によって値が変わるものの平均して1基で、一般家庭約150戸の電力をまかなうことができると試算している」(三井海洋開発)。これは500kW程度の出力に相当するだろう。

 ダリウス風車は、国内でも広く設置されている3枚羽根の風車とはかなり見た目が違う。回転方向の性質から垂直軸風車と呼ばれるタイプのものだ。揚力を利用して回転する*2)

*2) ダリウス風車は停止状態から回転状態に移行する自己起動が困難だとされている。[skwid]では、サボニウス水車の動力を利用して、自己起動の課題を解決している。

 なぜ、一般的な水平軸風車ではなく、垂直軸風車を採用したのだろうか。「タワーの高さが同じであれば、水平軸よりも効率が高いからだ。強い風に対してもタワーに掛かる力が少なくなる上に、強風時でも発電が可能だ」(三井海洋開発)。陸上に設置する同じ直径の水平型に対して2倍の発電量を見込めるのだという。さらに、重量がかさむ発電機をタワー上部ではなく、水面の浮体部に設置できることも大きいだろう*3)。発電機は図3の黄色い浮体の中央にある白い円筒形の部分だ。

*3) 垂直軸風車はどの方位の風でも受けることができ、水平軸風車のような能動的な方位制御が必要ないというメリットもある。

 潮汐発電は、1日2回起こる海面の上昇と下降を利用した発電だが、潮位差が大きなところでなければ実用化しにくい。例えば世界初のランス潮汐発電所(フランス、最大出力240MW、平均出力62MW)では潮位差が13.5mある。国内では有明海北部の約6mが最大だ。

 一方、潮汐に沿って起こる海水の水平方向の流れは、海峡や瀬戸などで増幅され強い流れに変わる。国内でも立地可能な地点が広く分散している。[skwíd]が利用するのも潮汐ではなく、潮流だ。

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