図2のような仕組みを作り上げるだけではリンを回収することはできない。微生物燃料電池自体は、以前から研究が続いている(関連記事)。研究チームが実験のための人工廃水ではなく、実際の養豚廃水を用いたため、リンを回収しやすい条件が整っていたのだという。
今回はリンを取り出すための条件を確立できた。「廃水中のリン酸イオンが同じく廃水中のマグネシウムイオンやアンモニウムイオンと反応してリン化合物となり、正極表面に析出する」(同氏)。正極表面に付着する形でリン化合物を取り出すことができた理由はこうだ。正極表面では酸素と水、電子の反応によって水酸化物イオン(OH−)の濃度が高まる。pHが大きい(アルカリ性)。pHが大きい条件でのみ、リン酸化合物(MgNH4PO4・6H2O)が析出する。このため、正極から離れた位置ではなく、表面で反応が起きる。
廃水処理能力はどの程度なのだろうか。「廃水の条件によって性能が変化する。養豚廃水を利用した場合、ある条件下では廃水中のリンのうち27%を取り出すことができた。1週間から10日をかけて、有機物のCOD(化学的酸素要求量)の76〜91%を除去したデータもある」(同氏)。
研究グループの目標はリンの回収にあるものの、電池としての可能性も高いのだという。
廃水に含まれる化学エネルギーは日本の年間電力エネルギー供給の約5%に相当するという。廃水処理に要する電力量の約9倍に当たる量だ。もちろん全ての化学エネルギーを取り出すことは不可能だが、廃水処理を省エネ化する際に利用できる。
「これまでの実験では、最大出力は電極面積当たり、2.3W/m2である」(同氏)。廃水を注入後、取り出せる電力が増え、浄化が進むと減るカーブを描くという。その後、廃水を交換すると再び電力が増える。
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