石炭火力発電のコスト削減とCO2回収を急げ、日本の威信をかけた実証プロジェクト蓄電・発電機器(3/3 ページ)

» 2015年12月24日 13時00分 公開
[石田雅也スマートジャパン]
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CO2回収コストは1kWhあたり1円強に

 CO2を分離・回収する技術にはいくつかの方式があるが、その中で2020年くらいに実用化が見込める「物理吸収法」を採用する予定だ。物理吸収法はCO2を高圧の状態にして吸収する方式で、現時点で主流の化学反応を利用した「化学吸収法」と比べるとコストを2分の1程度に抑えることができる(図5)。

図5 CO2分離・回収技術の進化(画像をクリックすると拡大)。出典:資源エネルギー庁

 2019年度からCO2分離・回収設備の実証試験を開始して、物理吸収法の目標コストである1トンあたり2000円台の達成を目指す。酸素吹きIGCCの発電設備からは電力1kWhあたり650グラム程度のCO2を排出する。発電能力が100万kW(キロワット)クラスの大規模なIGCCを実用化できた場合には、設備利用率(発電能力に対する実際の発電量)を70%として年間に約60億kWhの発電量になる。

 発電に伴って排出するCO2は年間に400万トン程度になる見通しで、全量を回収するコストは物理吸収法を適用した設備で80億円かかる。電力1kWhあたりに換算すると1円強で済む。石炭火力の発電コストは現在のところ1kWhあたり10円前後であることから、IGCCの建設コストを抑制できれば、CO2回収コストを加えても実用レベルにもっていくことは可能だ。

 内閣府の中間報告書ではCO2の回収コストを低減させる技術の開発にとどまらず、回収したCO2の貯留方法も早期に確立する重要性を強調した。1カ所の発電所から年間に400万トンのCO2を回収できても、大量のCO2を貯留あるいは利用できる技術が伴わなければ、CO2削減の仕組みを実用化することはむずかしい(図6)。

図6 CO2回収・貯留・利用の全体像(画像をクリックすると拡大)。出典:資源エネルギー庁

 国内では北海道の苫小牧市の沿岸部で2016年度からCO2の貯留試験を開始する計画がある。地上から海底1000メートル以上の貯留層まで、パイプラインでCO2を送り込む試みだ。2020年度までの5年間をかけて環境に対する影響などを評価する予定である。

 このほかに回収したCO2を使って人工的に光合成を促進する技術の開発も進んでいる。鹿児島県の鹿児島市ではバイオ燃料の原料になる藻を培養する試験が2015年度から始まった。広さが1500平方メートルある屋外の池にCO2を投入して、太陽光を当てながら光合成を促して藻を量産する。

 石炭火力発電の高効率化に加えてCO2の回収・貯留・利用の技術を確立できれば、日本全体のCO2排出量を大幅に削減できるうえに、各種の技術を海外に輸出して新たな市場を拡大することが可能になる。その成否は2020年代の半ばには明らかになるだろう。

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