迎え撃つ電力会社の準備も着々と進んでいる。東京電力はソフトバンクと提携した以外にも、関東を中心にLPガス(プロパンガス)の製造・販売会社と提携関係を拡大中だ。LPガスの販売戸数では関東で最大のニチガス(日本瓦斯)の販売チャネルを通じて、電力とガスのセット販売に注力する(図7)。ニチガスの顧客数はLPガスと都市ガスを合わせて関東の5県で100万件を超える。
さらに静岡県を拠点にして関東と中部にまたがる営業ネットワークをもつTOKAIグループとも提携した。TOKAIグループが扱うLPガスと都市ガスのほかに、インターネットやケーブルテレビ、水の宅配を加えて電力とセット割引を実施する予定だ(図8)。一気に中部電力のエリアまで事業範囲を拡大する。
2016年4月に自由化される家庭を中心とした低圧(契約電力50kW未満)の市場規模は全国で7.5兆円にのぼる(図9)。契約数で8400万件に達する巨大な市場だ。家庭を対象に事業を展開する企業にとっては、新たに電力事業に参入できるだけではなく、自社の既存事業を拡大する絶好のチャンスになる。
全国10地域の中では東京・中部・関西の市場規模が特に大きい。東京電力の低圧の契約数は2800万件を超えて、中部と関西でも1000万件を上回る。さらに九州が850万件、東北が760万件の契約数で続く。このうち1割の契約が切り替わるだけでも、市場の様相は大きく変わる。
資源エネルギー庁が2015年11月に全国1000人を対象に、電力小売自由化に関するアンケート調査を実施した。その中で「電気の購入先の変更を検討したいか」と尋ねたところ、「すぐにでも変更したい」との回答は2.8%にとどまったものの、「変更することを前提に検討したい」と考えている割合は2割を上回った(図10)。
しかも回答者のうち4割は「電力の小売自由化について内容を知らない」と答えたうえでの結果だ。これから4月に向けて多くの事業者がテレビやインターネットを通じて、料金の安さや特典を付けたキャンペーンを訴求していく。全国の家庭で小売自由化の認知度が高まるにつれて、電力の購入先に対する関心は強まるだろう。
電力の供給面で不安を感じる消費者も少なくないが、新しい流れが生まれると一気に加速するのが日本の市場の特徴だ。電力会社を中心にガス・石油・携帯電話・コンビニエンスストアなど、家庭を対象に事業を展開する企業が激しい競争を繰り広げながら、エネルギーの供給体制は大きな変化を遂げていく。その変革が2016年に始まる。
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