火力発電に伴うCO2排出量を削減する対策はほかにもある。発電後の排ガスからCO2を分離・回収して、地下に貯留する方法や燃料の生産に利用する方法がある(図7)。石炭火力発電のCO2を分離・回収する技術の開発は日本が進んでいる。国が支援して実証設備の運転が始まり、2020年代に実用化できる可能性が高まってきた。
内閣府が2016年4月に策定した「エネルギー・環境イノベーション戦略」では、2050年を見据えた革新的なエネルギー技術を網羅した。次世代の蓄電池や太陽光発電と合わせて、CO2を回収・利用する技術戦略が加わっている(図8)。実用化できればCO2排出量を削減することにとどまらず、新たなビジネスの創出にもつながる。低炭素社会の実現に向けた有効な対策になる。
その一方で再生可能エネルギーの拡大と原子力発電の位置づけも重要だ。環境省が策定する長期低炭素ビジョンでは、原子力発電に関して踏み込んだ内容を盛り込む可能性は小さい。2050年の時点では大半の原子力発電設備が運転開始から40年以上を経過しているため、運転延長や新設・設備更新を認めなければ原子力発電は消えていく。
対照的に再生可能エネルギーは2030年のエネルギーミックスを上回る勢いで拡大している。環境省は再生可能エネルギーの電力を2030年に33%へ、2050年には60%以上まで増やせる試算結果を公表したことがある。経済産業省がエネルギーミックスで設定した22〜24%を超える想定だ。それでも2050年に低炭素電源の比率を9割超へ高めるには足りない。
再生可能エネルギーの分野にも次世代技術の実用化が必要になってくる。その1つが水素エネルギーの活用だ。再生可能エネルギーで発電した電力から水素を製造して、地域を越えて輸送・貯蔵したうえでエネルギー源として利用する。そうすれば需要を上回る電力を再生可能エネルギーで作っても無駄にならない。
環境省は全国各地に分布する再生可能エネルギーのポテンシャルをもとに、全量を導入できた場合のCO2排出量を算出した。北海道や東北を中心に需要を上回る再生可能エネルギーを導入することが可能で、余剰分を他の地域に販売して収益を上げられる(図9)。衰退する地方経済の活性化につながる期待は大きい。
日本が目指す低炭素社会は農村・漁村と都市のそれぞれで再生可能エネルギーを地産地消しながら、地域間で資源や資金を循環させて共生するイメージだ(図10)。こうした自律分散・循環型の社会を形成できれば、温室効果ガスの排出量はゼロに近づいていく。
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