イタリアでも日本のようにまず大口需要者向けの市場が自由化され、2007年に一般家庭向けの電力市場も自由化、そして小売りが完全自由化となった。以降、発電も小売りもこれといった大問題もなく機能をしている。しかしながら、大手電力会社・ガス会社の市場占有率は68%と以前高い、スイッチング率は8%以上とその他のヨーロッパ諸国よりは高めなものの、その歩みは非常にのろのろとしているといわざるを得ない。前出のように大手電力会社Enelの影響力が非常に高いのに加え、一部の新電力が、過剰な営業行為(しつこく電話をかける、各家庭を訪問して営業活動)を行ったため、新電力のイメージが悪くなってしまったということも理由の一つにあげられる。
このような電気料金システムは1970年代のオイルショック時に電気料金の低価格を保障することで、最低限の生活を守り、さらに節電を促す目的で導入された。しかしながら、このような段階制の電気料金プランは、電気を効率的に使用する機会づくり(電気自動車の導入など)の妨げになっていると考えられ、より明確でわかりやすい電気料金を消費者に提供するためにも、取りやめる方向性で進んでいる。
ちなみに、イタリアでは他のヨーロッパ諸国と同様に特定の条件を満たす場合(例えば、契約容量が2kVA以下であるなど)に電気料金に関して補助金が受けれることになっている。
イタリアにおけるエネルギー(電力・ガス)会社の種類は大まかにいって3種類に分かれる。
現在は、主に電気料金の安さとカスタマーサービスの質が他社との競争のポイントになっているが、さらにこの電力会社を選ぶことが一般化されれば、エネルギー効率サービス、家庭内の電気のオートメーションサービスなど、付随サービスも増えると考えられる。
イタリアでも多くの比較サイトが存在する。一番の多いのは保険やローンの比較サイト。ビジター数も非常に多く、高い収益をあげている。これらの比較サイトはテレビでCMを流すほど流行っている。一方、エネルギー(電気・ガス)料金の比較といえばまだ、保険やローンの比較と比べると未だにマイナーである。
主な理由としては、イタリアの場合、その料金システムが複雑なことが挙げられる。電気料金が段階制のため単純明快な比較が難しいことや、電気料金以外にかかる諸費用が不透明な部分も依然あるためだ。ただし、少なくとも段階制の電気料金プランは今後なくなる予定なので状況は今後よくなっていくと考えられる。
再生可能エネルギーによる電気料金プランはイタリアでも多く販売されているが、需要者は通常の電気料金に上乗せされる形で、再生可能エネルギー証明書の分を払うという仕組みがとられている。しかしこのような電気料金プランはイタリアではあまり人気がない。
この15年でイタリアのエネルギー業界の構図は大きく変化したわけだが、消費者の立場からみるとその影響力はまだ限られたものとなっている。しかしながら、規制料金がなくなったことにより、電力会社同士の競争は確実に生まれ、消費者の意識も少しずつ変わりつつある。消費者レベルでの自由化は徐々に成し遂げられつつある。
パリ政治学院・コロンビア大学にて修士号。東京大学に留学経験を持つ。戦略コンサルタント業務に従事したのち、在学中に立ち上げた電気・ガス料金比較サービス会社セレクトラの業務に本格的に携わり、同社をヨーロッパ最大手に成長させる。現在フランスを中心に欧州7か国でサービスを展開、欧州での経験をもとに2016年5月に日本(セレクトラ・ジャパン:http://selectra.jp/)でのサービスを開始。
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