地熱発電で使わない熱水を生かす、8600世帯分の電力を供給開始:自然エネルギー(2/2 ページ)
九州電力は滝上発電所を含めて大規模な地熱発電所を大分県と鹿児島県の5カ所で運転している(図5)。このうち最大の「八丁原発電所」と「大岳(おおたけ)発電所」に隣接する九重町内の地区の1つで、2015年にバイナリー発電所を稼働させた実績がある。
図5 九州電力の地熱発電所の所在地。出典:九州電力
グループ会社の九電みらいエナジーが建設・運営を担当する「菅原バイナリー発電所」である(図6)。発電能力は滝上バイナリー発電所と比べて少し低い5000kWで、年間の発電量は3000万kWhを想定している。九重町が所有する地熱の生産・還元設備から蒸気と熱水の供給を受ける。ただし蒸気と熱水が従来の地熱発電では利用できない100℃前後の低温のため、バイナリー方式を採用した。
図6 「菅原バイナリー発電所」の発電設備(左)、上空から見た全景(右)。出典:九電みらいエナジー
九電みらいエナジーは鹿児島県の指宿市にある「山川(やまがわ)発電所」の構内でもバイナリー発電所の建設工事を進めている。発電能力や年間発電量は菅原バイナリー発電所と同じ規模で、2018年2月に運転を開始する予定だ。
いずれのバイナリー発電所も同様の設備で構成する。100℃前後の熱水から蒸気を分離して、その熱を使って沸点の低い媒体を蒸発させる仕組みだ。媒体には沸点が36℃のペンタンを利用する。蒸発したペンタンで蒸気タービンを回して発電できる(図7)。発電後のペンタンは空気で冷却して液体に戻してから循環させる。水とペンタンの2系統を組み合わせて発電することから、2種類を意味するバイナリー方式の名称が付いた。
図7 バイナリー方式による地熱発電。左側が既存の地熱発電設備、右側がバイナリー発電設備。建設中の「山川バイナリー発電所」の例。出典:九電みらいエナジー
日本国内に数多くある火山地帯には膨大な地熱資源が存在する。ただし大半が国立・国定公園に指定されているため、地熱発電所の建設には制約がある。火山地帯の周辺には100℃前後の蒸気や熱水が湧き出る場所も多く、全国各地で温泉に利用してきた。バイナリー発電所は温泉資源を枯渇させないように注意して建設できれば、地熱発電を拡大する有効な手段になる。
- 資源に影響を与えない地熱発電所、日本一の温泉県で動き出す
地熱発電で全国の先頭を走る大分県では、さまざまな方式で電力を作る。低温の蒸気と熱水を利用するバイナリー方式のほか、温泉水を使わずに地中の熱を吸収して発電する実証設備が世界で初めて運転に成功した。森林地帯と臨海工業地帯では大規模なバイオマス発電所が電力の供給を開始した。
- 低温の地熱でも発電できる、大分県の火山地帯から8300世帯分の電力
日本で地熱発電が最も活発な大分県の九重町に、九州電力グループが新しい地熱発電所を運転開始した。100度前後の低温の地熱でも発電できるバイナリー方式を採用して、一般家庭で8300世帯分の電力を供給することができる。地元の九重町が蒸気と熱を提供して使用料を得るスキームだ。
- 地熱発電に使わない熱水から8000世帯分の電力、2018年2月に供給開始
九州電力グループが鹿児島県の指宿市で稼働中の地熱発電所に新しい設備を建設する。これまで発電に利用していなかった熱水を使って、水よりも沸点の低い媒体を蒸発させて発電する計画だ。2018年2月に運転を開始する予定で、一般家庭の8000世帯分に相当する電力を供給できる。
- 福島県の温泉で地熱発電を開始、139度の温泉水から500世帯分の電力
東日本大震災の被害を受けた福島県の温泉が再生可能エネルギーによる町づくりを進めている。豊富に湧き出る温泉水を利用して地熱発電を開始した。国の支援を受けて導入したバイナリー発電設備で500世帯分の電力を供給することができる。近くの川では小水力発電所も動き始めている。
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