持続的な営農への懸念も、大規模化するソーラーシェアリングの課題ソーラーシェアリング入門(7)(2/2 ページ)

» 2018年12月20日 07時00分 公開
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大規模化の懸念、本当に営農を継続できるのか

 ニュースリリースなどを探っていくと、特別高圧規模のソーラーシェアリング事業も公になっています。特別高圧規模の事業がどの程度の規模になるか試算してみると、例えば多くの作物が栽培可能とされる遮光率33%程度のソーラーシェアリング設備では、1haあたり700kWp程度の太陽光パネル設置量が限度になります。この条件で1000kWpを設置するには約1.5ha、1万kWp(10MWp)となれば、敷地面積は約15haと拡大していき、当然ながらこれは全て営農する農地の面積ということになります。

 国内の1農業経営体あたりの平均経営耕地面積は2.87ha(平成29年)で、例外的に耕地面積の広い北海道でも28.16haです。すなわち、2MWのソーラーシェアリングで既に国内の平均的な耕地面積を超え、10MW以上のソーラーシェアリングとなると家族経営規模では営農が困難な広さとなります。農業法人などの農業経営体で営農するとしても、地域の大農家と呼べるほどの経営体制が必要になるでしょう。当然ながら、これだけの面積となれば使用する農業用機械も大型化・高額化することになりますし、機械が大型化するとソーラーシェアリングの架台も比例して大きくなるため、そちらのコストアップも生じることになります。例外的に、牧草地の場合は数十haを超えるものも珍しくないため、牧草地におけるソーラーシェアリングの場合には規模を確保することが出来なくはないと言えます。ただ、牧草栽培で用いられる農業機械は非常に大きく、作業幅が10〜20mに達することも珍しくありません。

農地面積が広がれば、農業用機械も大型化・高額化することが考えられる

 さらにこれだけの規模の農業経営が可能な人材も少なく、その確保も課題となります。年商5000万円を超える組織的な農業経営体は全国で約8000しかなく、その中でもハウスなどの施設栽培ではなく大規模な露地栽培をしているところはさらに限られます。この規模の農業経営に携わった経験がなければ、特別高圧規模のソーラーシェアリング下で安定した営農を行うことは難しいと考えられます。

今後はどうなるのか?

 では、今後広がっていくソーラーシェアリングは、さらに大規模化の方向に向かうでしょうか。少なくとも、農地転用を前提として計画された太陽光発電事業を一時転用許可によって組成していく大規模事例は、引き続き見られるでしょう。現在、経済産業省による高額なFIT案件を整理していく動きが見られますが、そういった未稼働案件の中には農地転用で躓いているものも見られます。一方で、太陽光発電の事業適地となる空き地の減少や、山林開発型に対する批判の高まりや規制の強化から、新たに太陽光発電の事業適地としてソーラーシェアリングに目を向ける事業者が増えてきており、そういった事業者はFITが引き下げられる中で大規模化を指向しています。

 この傾向を、視点を変え農業側の事情から見ていくと、我が国の農業政策の方針としては、農業の法人化と集約化を進めることになっており、農林水産省が毎年公表している食料・農業・農村白書では「農業の成長産業化のためには、農地利用の担い手への集積・集約化が重要」としています。国内の再生可能エネルギー全般の普及を妨げている系統制約の問題は、ソーラーシェアリングの視点からも容易に克服できるものではないので、ここで詳しくは取り上げませんが、大規模農業が盛んな北海道では系統制約も大きなハードルになるでしょう。

 詳しく事例を分析していくと、高圧規模のソーラーシェアリングを保有する農業法人は増えつつあり、千葉エコ・エネルギーとしても高圧規模の事業に取り組むに当たって自社で農業参入を果たしました。森林開発型のメガソーラーに厳しい目が向けられる中で、大規模な環境改変を伴わない太陽光発電の適地として農地が注目されつつあることや、新たに農業への参入を図ろうとする企業を中心として、今後は大規模なソーラーシェアリングの導入が進む可能性があると考えられます。

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