現在、地産地消型のVPP事業は地域新電力を中心に行われている。地域新電力とは、地方自治体の参画の下で電力小売事業を営む企業であり、自治体が主要株主となり地元企業と共に地域の地産地消型電力ビジネスを推進するケースもあれば、総合商社やエンジニアリング会社などの大手民間企業が、地方創生やVPPのスモールスタートを目的として、同事業に乗り出すケースもある。
しかしながら、地域新電力には主に以下2点の経営課題を抱えているケースが多い。
これらの理由から、多くの地域新電力の事業規模は、自治体が保有する公共施設などへの電力供給にとどまるケースが多い。しかしながら、温室効果ガスゼロを実現するためには地域内の企業や個人レベルの脱炭素を推進しなくてならない。前述の「地域脱炭素ロードマップ」でも、2030年の目標として「民生部門(家庭部門及び業務その他部門)の電力消費に伴うCO2排出については実質ゼロ」が掲げられている。したがって、地域新電力が今後VPP事業を拡大するためには、上記の課題解決に向けたビジネスモデルの再構築が必要であると考える。
前述の課題の解決に向けたアプローチとして以下が考えられる。
まずエネルギーの「地産」については、例えば地域内の再エネによる発電量(ポテンシャル含め)が地域内の電力消費量を上回る地域と連携することで、他地域から再エネを調達する仕組みが考えられるのではないか。電力を供給する地域としては、発電事業を地域ビジネスとして立ち上げることもでき、両地域にとって脱炭素かつ地方創生というメリットをもたらす事業である。実際に欧州でも、「Positive Energy District」という、発電量が消費量を上回る地域の拡大を目指している。これについては、次回の第3回で詳しく解説したい。
また、「地域脱炭素ロードマップ」でも重点対策として取り上げられるEVを、ガソリン・ディーゼル車からのシフトとだけ捉えず、地域の再エネ電源の不安定性を補完する蓄電池としての役割をもたせ活用することで、「安定した地産電源」への寄与が期待できる。具体的には、地域の公共バスや、地元のタクシー会社などと連携し地域内のEVを普及させるような、B2Bの取り組みがまず検討されるべきと考える。
現に中国ではバスやタクシー、配送会社の車両など、法人が有する車両については100%EV化された地域も多く、調整力としての活用検討が進められている。EVから電力系統へ放電する技術としてV2G(Vehicle to Grid)の他、現在中国で拡大している電池そのものを交換する電池交換方式においても、国営送電会社、国家電網を中心に、車載用蓄電池の系統安定化利用に向けた実証事業が進められている(こちらも第3回で詳しく解説したい)。
さらに電力使用を「抑える」、いわゆるデマンドリスポンスにより需給を安定させる取り組みも重要である。需要を抑えるためには電力消費者のプロジェクト参画が必要であるが、アメリカオレゴン州の電力会社PGE社は、住民にギフトカードなどのインセンティブを与える形で住民のVPP事業への参画を促し、家庭内リソース(蓄電池、給湯器、冷房など)を制御できる仕組みを構築しており、参考にしたい。
なおこれらは、「地域脱炭素ロードマップ」が目指す脱炭素取り組みにも含まれる要素である。
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