2023年度に「長期脱炭素電源オークション」が始動、対象電源と制度設計の詳細は?エネルギー管理(1/4 ページ)

「2050年のカーボンニュートラル実現」に向け、新たな低炭素電源のへの投資拡大を目的とした新制度「長期脱炭素電源オークション」が2023年度からスタート。本稿ではその概要について解説する。

» 2022年06月29日 07時00分 公開
[梅田あおばスマートジャパン]

 カーボンニュートラル実現を踏まえた電源の新設投資を促進するため、新規電源投資について長期間固定収入を確保する仕組みの創設が「制度検討作業部会」において検討されている。

 これまでこの新制度には公式名称が無かったが、脱炭素電源の容量(kW)を長期に渡って確保するための制度措置であるため、「長期脱炭素電源オークション」と命名された。

 供給力(kW)を確保する仕組みとしては、既に容量市場が存在するが、本制度措置は容量市場の一部として位置づけられるものであり、「事前に決まっていない政策的な対応等」に開催される「特別オークション」の一類型として位置付けられている。

図1.長期脱炭素電源オークションの位置付け 出所:容量市場の在り方等に関する検討会

「長期脱炭素電源オークション」の対象電源は?

 本制度ではカーボンニュートラルの実現が前提条件の一つであるため、制度措置の対象は「発電・供給時にCO2を排出しない脱炭素電源への新規投資」に限定されている。具体的には「CO2の排出防止対策が講じられていない火力発電所(石炭・LNG・石油)を除く、あらゆる発電所・蓄電池の新設案件やリプレース案件への新規投資」が想定されている。

 しかしながら、脱炭素燃料として有力視されるアンモニアや水素等については、当初から100%これらの専焼とする電源の新設は困難であることから、当面は化石燃料との混焼を前提とした新設や、既設火力の改修によりアンモニア等を混焼させることが現実的と考えられている。

 ただし既設火力の改修の場合、脱炭素化には寄与するものの、国全体の供給力純増とはならないことが論点とされる。これについては、制度適用期間が長期間(後述するように20年以上)に設定されるならば、電源の長期間の稼働が担保され、供給力の維持確保につながることとなるため、本制度措置の対象であると判断された。

アンモニア・水素混焼――新規投資の取り扱い

 アンモニア・水素等の脱炭素燃料と化石燃料を混焼する投資形態としては、新設か既設電源の改修であるか、また化石燃料が石炭かLNGであるかで、4つのケースに場合分けされる。

 このうち、相対的にCO2排出量の多い石炭との混焼火力を新設するケースは、本制度措置の対象外とされた。

表1.本制度措置の対象となるアンモニア・水素の混焼 出所:制度検討作業部会

 残る3つのケースにおいて、化石燃料とアンモニア・水素を混焼する新規投資を対象とする場合、その混焼率や、専焼化への道筋をどのようにつけていくか等が論点となる。

 第6次エネルギー基本計画などを基に策定された電力分野の「トランジション・ロードマップ」においては、2020年代後半にアンモニア20%混焼・水素10%混焼を実装していくことが目標とされている。このため長期脱炭素電源オークションにおいて当面は、アンモニアは20%、水素は10%以上の混焼(熱量ベース)を求めることとされた。なお、今後の技術開発や商用化の状況を踏まえながら、混焼率の見直しを行っていくこととする。

 当初は化石燃料との混焼として新設(リプレースを含む)される場合、当該事業者に対して専焼化への道筋を求めることが大前提とされる。

 このため長期脱炭素電源オークション入札事業者に対して、入札時点において、対象電源の2050年に向けた専焼化へのロードマップの提出を求め、落札一定期間後に当該ロードマップを公表することとする。

 なお、アンモニア・水素等の専焼についてはまだ技術開発の段階にあるため、将来の専焼化を義務づけることはしない。ただし、合理的な理由なく専焼化に向けた追加投資を行っていない場合には、容量支払いを停止する等のペナルティを設けることとする。

 上述のとおり、既設火力の改修案件は長期的な供給力の維持確保には有益であるものの、短期的な供給力の増加には寄与しない。このため、既設火力の改修案件(アンモニア・水素)は、募集量の1/4程度までとする等、募集上限を設けることが事務局から提案されている。

 この場合、募集量残りの3/4程度は「新設」案件で満たす必要があるが、アンモニア・水素の専焼電源新設は当面考えにくいことから、実質的にLNG火力の混焼新設のみが対象となり得る(もしくは、他の再エネやCCS付火力、蓄電池等の新設が対象)。

 これは化石燃料ポートフォリオを一層、LNGに偏重させることとなるため、エネルギーセキュリティの観点から注視が必要と考えられる。

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