特有ルールが満載の「長期脱炭素電源オークション」、入札ルールの詳細は?エネルギー管理(1/4 ページ)

電力供給力の確保と脱炭素電源への新規投資促進を目的とした「長期脱炭素電源オークション」。2023年度のスタートに向けて、入札価格に対する規律や電源ごとの価格上限など、制度の詳細が明らかになってきた。

» 2022年11月09日 07時00分 公開
[梅田あおばスマートジャパン]

 電力供給力の確保と脱炭素電源への新規投資促進を目的として、「長期脱炭素電源オークション」が2023年度から導入される。本制度は、容量市場の特別オークションという位置づけであるため、多くの点で容量市場と共通しているものの、制度適用期間が20年間という長期であることや、対象が脱炭素電源に限定されるなど、大きな相違点も存在する。

 このため資源エネルギー庁の制度検討作業部会では、本制度特有の点に関する新たな制度設計が進められている。

入札価格に対する規律

 現行の容量市場では、応札電源が他市場(卸取引市場・需給調整市場・非化石価値取引市場)から得られる収益を控除したkW価格で応札するのに対して、20年間の将来収益を見通すことは現実的ではないことから、本制度では、他市場収益を0とした上で応札し、落札後に実際の他市場収益の約90%を還付する仕組みとされている(※なお一般的に、「収益」とは売上(revenue)を意味するのに対して、本制度では「収入」から「可変費」を控除した「利益」のことを意味しているので、本稿もこれに従う)。

 この場合、もし自社小売部門や自社グループなどに対してkWh等を安価で販売し、意図的に他市場収益を0とするならば、その発電事業者は還付を回避することが可能となってしまう。このような制度の悪用を防止するために、相対契約に関する一定の規律が必要とされる。

 なお現在、旧一般電気事業者は、社内外・グループ内外の取引条件を内外無差別な価格とすること(コミットメント)が求められており、すでにこのような規律が適用されると言える。

 よって他の発電事業者による相対取引に関しても、内外無差別性が確保されていると判断されるためには、市場価格と比べて不当に低い価格水準でないことが求められる。

 具体的には、相対取引価格は

  1. 相対契約の供給期間と同じ長さの過去の市場価格の平均価格
  2. 相対契約の契約期間に含まれる各年度の市場価格の平均価格

のいずれかの価格以上であることが求められる。

 仮に、こうした規律が守られていない場合は、「スポット市場の当該エリアプライスの単純平均価格と高度化法義務達成市場の単純平均価格の合計額」を元に他市場収益を計算し、その90%が還付される。

還付割合の稼働インセンティブ配慮

 本制度において、もし他市場収益の全て(100%)を還付させてしまうならば、事業者の発電所稼働インセンティブが低下してしまう。そこで利益の一定割合(約90%)を還付させ、残りの利益は事業者が稼働インセンティブとして留保できる仕組みとされている。

 このとき、より市場価格が高いときに発電することや、より低い価格で燃料調達を行うといった効率的な運用を促すため、還付率に段差を設けることとされた。

図1.稼働インセンティブに配慮した還付割合 出所:制度検討作業部会

 具体的には図1のように、年間他市場収益の多寡に応じて、3段階の還付率が設定される。

 まず、入札価格に織り込まれている事業報酬×調整係数までの他市場収益(Aの部分)では、95%還付とする。

 次に、「入札価格×調整係数」と供給力提供年度における「容量市場のメインオークション価格(対象電源が立地するエリアプライス)×調整係数」の差額を超えるB部分の他市場収益は、85%還付とする。これは、現行容量市場よりも国民負担が小さくなることを踏まえた、追加的な報酬と言える。

 そして(A)と(B)の間の他市場収益Cは、90%還付とする。

 この仕組みにより、他市場収益が多いほど還付率は85%に近づくこととなり、発電事業者は、より多くの利益を手元に残すことが可能となる。

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