“LNG争奪戦”の加速で高まる供給断絶リスク、政府は「戦略的余剰LNG」の導入を検討エネルギー管理(4/5 ページ)

» 2022年12月15日 07時00分 公開
[梅田あおばスマートジャパン]

「戦略的余剰LNG」を創設へ

 石油と異なり、LNGはタンクでの長期・大量の備蓄が出来ないため、調達先を分散させることにより、これまで安定供給を図ってきた。

 ところが全世界的なLNGの需給逼迫が生じている現下では、有事に備えたLNG確保の新たな仕組みにより、供給途絶を未然に防ぐことが必要とされている。このため国は、経済安全保障推進法に基づき、「戦略的余剰LNG(Strategic Buffer LNG:SBL)」を確保し、2023年度から運用開始することを公表した。

 経済安全保障推進法では、半導体やレアアースなどを「特定重要物資」として指定することにより、その安定調達を支援することとしている。

図6.戦略的余剰LNG (SBL)確保支援事業イメージ 出所:石油・天然ガス小委員会

 SBL確保支援事業では、まず経産省がJOGMEC(独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構)を「安定供給確保支援独立行政法人」に指定した上で、基金を設置する。そして「認定供給確保事業者」は短期〜長期契約等に基づき、「戦略的余剰LNG(SBL)」を確保する。

 LNGを物理的に備蓄(ストック)できないという前提に立つならば、SBLは常にフロー状態で消費していく必要がある。このためSBLとして確保されたLNG(流通在庫)は、平時には国内の電力会社等や海外マーケットに対して販売される。

 ただし、いざ需給逼迫が生じ、経産省が必要と認める時には、経産省が指定した国内事業者へ販売することが求められる。

 平時・需給逼迫時いずれにおいても、SBLの販売に伴い、認定供給確保事業者に転売損等が生じた場合は、JOGMECはその補填のため基金から助成金を交付する。その逆に、SBLの販売に伴い、認定供給確保事業者に利益が生じた場合は、事業者は基金へ利益を返還することとなる。

 よって、事業者がこのSBL確保支援事業に参加した場合、利益も損失も生じない。ただし、このSBLのための人件費等の経費が発生すると想定されるため、その実費は支払われる予定である。

戦略的余剰LNG(SBL)として確保する数量

 SBL確保支援事業の制度詳細については、経済安全保障推進法に基づく「取組方針」に定められている。

 まずSBLとして確保するLNGの数量は、供給途絶等の事態に対して、事業者が緊急の対応を行う時間的猶予を稼ぐことのできる数量を目安とする。

 費用抑制の観点からは、長期契約に基づくLNGを確保した上で、SBLとしてトレーディングを実施することが望ましいが、上述のように2026年頃までは安定的な価格での長期契約を締結することは困難であるため、当面は短期のターム契約を締結することが想定される。

 よって最低限の「つなぎ」の数量として、冬季(12月、1月、2月)に最小でも月間1カーゴ(LNG船1隻に積載するLNGの総量)以上、年間で3カーゴ以上のSBLの運用を目指すものとする。

 将来的には、安定的な価格での長期契約等に基づき、月間1カーゴ以上、年間12カーゴ以上のSBLの運用を目指していく。

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