世界的に続く化石燃料価格の高騰。LNGをはじめとする多くの化石燃料を輸入に頼る日本にも、その市場変動は大きな影響を与えている。そのため政府では、エネルギーセキュリティ確保の観点から、長期・大量の備蓄が困難なLNGを追加的に確保する新たな施策「戦略的余剰LNG」の検討を開始した。
ロシアによるウクライナ侵攻を契機として、世界的にガスや石炭等の化石燃料価格が高騰している。2021年4月時点と比較して2022年10月時点のスポット価格は、石炭で4倍強、LNGでは6倍程度となっている。
直近の2021年度では、日本の電源構成の34.4%をLNGが、31.0%を石炭が占めている。このため大手電力会社のうち、東北電力・北陸電力・中国電力・四国電力・沖縄電力の5社からは、規制料金(特定小売供給約款料金)の変更(値上げ)認可申請が行われたところである。
日本は化石燃料の大半を海外から輸入しているが、一定の備蓄が可能な原油と異なり、天然ガスを−162℃で液化したLNGは、長期・大量の備蓄が困難であるという特徴がある。
このため資源エネルギー庁の「石油・天然ガス小委員会」では、エネルギーセキュリティ確保の観点から、LNGを追加的に確保する新たな施策として、「戦略的余剰LNG」の運用開始が提案されている。
日本等のアジア諸国では、高価なLNGのかたちでガスを輸入せざるを得なかったのに対して、ガスパイプラインが整備されている欧州では、これまでロシア等から安価に天然ガスを輸入してきた。
ところが現在、ロシアからのパイプライン天然ガス輸入が激減した欧州では、これを補うためにLNGを世界中から買い集めており、このことがLNGの世界的な逼迫(ひっぱく)と価格高騰の一因となっている。
このためバングラデシュ等のアジア途上国ではLNGを十分に輸入できなくなり、停電などの社会的な影響も生じている。
長期的な世界全体のLNG供給余力を表したものが図2であり、世界的にLNG需要がピークとなる1月の需要と供給が均衡する点を「ゼロ」として描かれている。
脱炭素化によるLNG事業の採算不確実性などを理由として、新規LNG案件の投資開発が少なかったため、緑色線のように2025年頃には、LNG供給余力はマイナス値となることが予想されていた。
さらに欧州によるLNG輸入の増加に伴い、供給余力不足幅の拡大と長期化が懸念されている。
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