燃料の脱炭素化で期待される「合成メタン」、CO2排出に関する制度設計が急務に法制度・規制(3/4 ページ)

» 2023年06月23日 07時00分 公開
[梅田あおばスマートジャパン]

「GHGプロトコル」における合成メタンの扱い

 グローバルに活動する企業にとっては、国のSHK制度だけでなく、事実上の世界標準である「GHGプロトコル」における合成メタンの取扱いも重要となる。

 現行のGHGプロトコルでは、カーボンリサイクル燃料(合成メタン等)は化石燃料と区別されていないため、合成メタン利用時に排出されるCO2量を、通常の都市ガスと同様にScope1(直接排出)で報告しなければならないと解釈される。またGHGプロトコルでは、電力の使用に伴う間接排出(Scope2)を、証書や契約に基づく調整後の排出量で報告することができる(市場ベース法)。

 このため日本ガス協会は、GHGプロトコル事務局に対して、カーボンリサイクル燃料のカーボンニュートラル性やガスの証書を扱えるルールの追加について意見提出を行っている。

表2.「GHGプロトコル」における合成メタンの扱い 出典:ガス事業制度検討WG

合成メタンMRV(測定・報告・検証)の方法論

 合成メタン利用におけるCO2排出の取扱いは、GHGプロトコルやIPCCガイドラインなどの国際的なCO2削減成果の帰属等に関するルールに位置付ける必要があるが、その前提として、CO2削減成果を定量化する仕組み、MRV(測定・報告・検証)方法論の構築が必要となる。

 現時点、合成メタンのMRV方法論は確定しておらず、ISO等でMRV方法論の検討が進められている。MRVの方法論においては、比較対象(ベースライン)や評価対象・範囲(バウンダリー)の定義が重要となる。日本ガス協会では、合成メタンは天然ガスを代替することを前提として、天然ガス利用におけるGHG総排出量をベースラインとして、合成メタンへの転換後の差分をCO2削減成果として算定・定量化することを提案している。

 また、CO2削減成果を定量化するバウンダリーは、MRV方法論によって以下のように異なっている。

図6.MRV方法論により異なるバウンダリー 出典:日本ガス協会

 製品のカーボンフットプリント(CFP)を算定するISO 14067では、LNGのサプライチェーンを基礎として、CO2回収量を燃焼時排出量と相殺する算定式を提案中である。

図7.ISO 14067に準拠した合成メタンのCFP 出典:日本ガス協会

 また国際海運の分野では、国際海事機関(IMO)において、船上で合成燃料を燃焼した際のGHG排出量算定方法の検討が進行中である。回収したCO2は陸上の排出量として計上し、ダブルカウントを避ける観点から、船上のCO2排出量はゼロと取り扱うことをベースに検討が進められている。

図8.IMOのLCAガイドラインのイメージ 出典:国際海運GHGゼロエミッションプロジェクト

 またJOGMEC(エネルギー・金属鉱物資源機構)では、「LNG・水素・アンモニアのGHG排出量及び炭素強度(Carbon Intensity:CI)算定のための推奨作業指針」(CIガイドライン)の初版を2022年に策定しており、2023年7月頃に公表予定の第2版では、合成メタンのCI算定方法を追加予定である。

 炭素強度(CI)は、燃料由来のGHG排出量に対して、燃料が持つエネルギー含有量又は重量で除した値であり、水素のCI算定式は、以下のようになる。

 改定水素基本戦略では、炭素強度(Well to Production Gate)3.4kg-CO2e/kgH2以下の水素を「低炭素水素」、0.84kg-CO2e/kg-NH3以下(Gate to Gate)のアンモニアを「低炭素アンモニア」と定義している。

 なおJOGMECのガイドラインでは、合成メタンの製造段階及び天然ガスとの混合液化段階のCI算定を記載しており、燃焼時点のCO2排出は検討対象としていない(CO2カウントルールに準ずる)。

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