同時市場は、取引所取引を前提とした仕組みであるものの、相対取引が否定されるものではなく、電源投資や燃料調達(輸入)の観点からも重要な取引と位置付けられている。
なお、発電量を自社で確定させたい電源のうち、量のみを入札するものや、市場外で取引し、市場システムへ量のみを登録するものを「セルフスケジュール電源」と呼んでおり、この入札方法等に関しては、複数の案が示されているところである。
近年、JEPXスポット市場の取引量が増加しているものの、相対取引量も多いため、純粋な市場取引量は1割程度と推測されている。よって、同時市場の開始後も、相対取引電源の多くがセルフスケジュール電源として、相対取引をベースとした起動の意思決定が行われると予想される。ただし、セルフスケジュール電源の限界費用が市場価格より高い場合、発電事業者による市場での経済差し替えのニーズ等があると考えられる。
送配電事業者(TSO)が把握できない形でのセルフスケジュール電源の差し替え(電源停止)は、安定供給上の問題があることを踏まえ、メリットオーダー(経済性)の観点、BG(バランシンググループ)における創意工夫や予見性の観点などを総合的に勘案して、詳細な入札の仕組みを検討する予定である。
同時市場における電源起動(SCUC)・出力配分(SCED)ロジックについては、相当程度に高度な計算を行うことが想定されるため、専門家による第三者検証体制として、「技術検証会」が設置されている。
電源起動・出力配分ロジックの検証シミュレーションには、電力中央研究所のプログラムを使用することとしており、電源運用と系統運用(送電容量)に関する制約を考慮し、供給力と調整力に対する需要に見合った、最も経済的な需給運用計画(≒電源運用スケジュール)を立案することが可能である。
検証において、入力データの一つである全国基幹系統データは、2030年を想定した上位2電圧の広域系統を模擬しており、エリア数:9(沖縄以外の全国)、ブランチ数:1,384、ノード数:1,191、電源ユニット数:1,750、としている。
需要データ、電源データのいずれも2030年を想定し、9エリア合計の電源設備量は表1のとおりである。(MACC:1500℃級コンバインドサイクル、ACC:改良型コンバインドサイクル、CC:コンバインドサイクル、Conv:従来型)
調整電源(火力・揚水)の個別諸元については、燃料特性や起動費等の特定を防ぐため、燃種毎にいくつかの出力帯ごとに平均化した定数を設定している。
SCUC(系統制約を考慮した上で、起動費、最低出力費用、限界費用が最経済となるように起動停止計画を策定)やSCED(系統制約を考慮した上で、最経済となるように経済負荷配分を決定)の解を求めるには、多大な計算能力を必要とする。
電源の数が増えると、その組み合わせ数は指数関数的に増加するため、電中研によれば、500ユニットの電源起動停止の組み合わせ数は、2500 = 3.3 × 10150通りであり、1日24時間を最適化する場合は、2500×24 = 1.03 × 103612(10の3612乗)である。
よって、高速な計算機はもとより、実用的な時間で計算できるように工夫が必要とされる。
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