日本版「同時市場」の導入に残された課題とは? 主要な論点と市場設計の方向性再エネの大量導入に対応する新市場(2/4 ページ)

» 2023年09月26日 07時00分 公開
[梅田あおばスマートジャパン]

電源の調達・運用に関するバランシンググループの自由度

 同時市場は、取引所取引を前提とした仕組みであるものの、相対取引が否定されるものではなく、電源投資や燃料調達(輸入)の観点からも重要な取引と位置付けられている。

 なお、発電量を自社で確定させたい電源のうち、量のみを入札するものや、市場外で取引し、市場システムへ量のみを登録するものを「セルフスケジュール電源」と呼んでおり、この入札方法等に関しては、複数の案が示されているところである。

 近年、JEPXスポット市場の取引量が増加しているものの、相対取引量も多いため、純粋な市場取引量は1割程度と推測されている。よって、同時市場の開始後も、相対取引電源の多くがセルフスケジュール電源として、相対取引をベースとした起動の意思決定が行われると予想される。ただし、セルフスケジュール電源の限界費用が市場価格より高い場合、発電事業者による市場での経済差し替えのニーズ等があると考えられる。

 送配電事業者(TSO)が把握できない形でのセルフスケジュール電源の差し替え(電源停止)は、安定供給上の問題があることを踏まえ、メリットオーダー(経済性)の観点、BG(バランシンググループ)における創意工夫や予見性の観点などを総合的に勘案して、詳細な入札の仕組みを検討する予定である。

図2.現行の相対取引と同時市場開始後のイメージ 出典:同時市場の在り方等に関する検討会

同時市場における電源起動・出力配分ロジックの検証

 同時市場における電源起動(SCUC)・出力配分(SCED)ロジックについては、相当程度に高度な計算を行うことが想定されるため、専門家による第三者検証体制として、「技術検証会」が設置されている。

 電源起動・出力配分ロジックの検証シミュレーションには、電力中央研究所のプログラムを使用することとしており、電源運用と系統運用(送電容量)に関する制約を考慮し、供給力と調整力に対する需要に見合った、最も経済的な需給運用計画(≒電源運用スケジュール)を立案することが可能である。

図3.同時市場の最適化ロジック検証のイメージ 出典:同時市場の在り方等に関する検討会

 検証において、入力データの一つである全国基幹系統データは、2030年を想定した上位2電圧の広域系統を模擬しており、エリア数:9(沖縄以外の全国)、ブランチ数:1,384、ノード数:1,191、電源ユニット数:1,750、としている。

 需要データ、電源データのいずれも2030年を想定し、9エリア合計の電源設備量は表1のとおりである。(MACC:1500℃級コンバインドサイクル、ACC:改良型コンバインドサイクル、CC:コンバインドサイクル、Conv:従来型)

表1.調整電源・再エネの設備量(2030年) 出典:同時市場の在り方等に関する検討会

 調整電源(火力・揚水)の個別諸元については、燃料特性や起動費等の特定を防ぐため、燃種毎にいくつかの出力帯ごとに平均化した定数を設定している。

表2.調整電源の諸元(平均化) 出典:同時市場の在り方等に関する検討会

 SCUC(系統制約を考慮した上で、起動費、最低出力費用、限界費用が最経済となるように起動停止計画を策定)やSCED(系統制約を考慮した上で、最経済となるように経済負荷配分を決定)の解を求めるには、多大な計算能力を必要とする。

 電源の数が増えると、その組み合わせ数は指数関数的に増加するため、電中研によれば、500ユニットの電源起動停止の組み合わせ数は、2500 = 3.3 × 10150通りであり、1日24時間を最適化する場合は、2500×24 = 1.03 × 103612(10の3612乗)である。

 よって、高速な計算機はもとより、実用的な時間で計算できるように工夫が必要とされる。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.