「同時市場」で変動性再エネ電源をどう扱うか、FIT/FIP制度との整合性が論点にエネルギー管理(1/4 ページ)

現在導入に向けた制度設計が進んでいる「同時市場」。kWhとΔkWを同時最適化するこの市場において、重要な論点となるのが太陽光や風力といった変動性再エネ電源(VRE)の取り扱いだ。その方針について、主要な論点と具体的な制度の方向性をまとめた。

» 2023年11月02日 07時00分 公開
[梅田あおばスマートジャパン]

 現在、国(資源エネルギー庁・電力広域的運営推進機関)は、電力の安定供給維持を大前提に、経済性追求のため、kWhとΔkWを同時最適化する「同時市場」の導入検討を進めている。

 今後の変動性再エネ電源(VRE)の大量導入を踏まえ、同時市場において、太陽光や風力といったVREをどのように取り扱うかは重要な論点となる。

 また、日本の制度上、VREにはFIT電源・FIP電源・非FIT電源が併存しており、FITの特例制度やFIP制度の趣旨や運用を尊重し、同時市場(電源起動・出力配分ロジック)で扱う際の入札方法や、SCUC(※)を計算する際のVREの出力予測主体等について検討を行うことが求められる(※系統制約を考慮した上で、起動費・最低出力費用・限界費用が最経済となるように起動停止計画を策定すること)。

 なお、同時市場の検討においては、先行する米国PJMを主に参考としているが、PJMではVRE導入量は日本ほど多くないことや、FIT/FIP制度は存在しないといった相違点が存在する。

 このため、現在日本が検討中の、同時市場におけるThree-Part OfferによるkWh・ΔkW同時最適化とFIT/FIP制度の融合・市場統合は、世界でも前例のない取り組みになると考えられる。

現行のFIT/FIP制度の振り返り

 FIT制度では再エネ導入促進のため、FIT電源の発電量の全量を、「買取義務者」が固定価格で買い取る仕組みとなっている。また、再エネの出力変動によるインバランスリスクを回避するため、特例制度が3つ設けられており、それぞれの発電計画作成主体等は表1のとおりである。

表1.FITインバランス特例制度の類型 出典:エネ庁資料をもとに筆者作成

 FIT電源では、買取義務者(特例①:小売事業者)は、自社の売電計画(自社供給、卸市場売り)に関係なく、全量買取を義務付けられており、これをそのまま同時同量計画に反映するだけであると、買取義務者は常にインバランスリスクに晒されることとなるため、このような特例制度が設けられている。

 通常の電源であれば、発電事業者が発電計画を作成し、ゲートクローズ(GC)時点の同時同量計画を策定するが、FIT特例制度では、発電事業者自身で発電計画を策定することなく、買取義務者が代行して、計画策定(計画の作成と提出)することとなっている。

 さらにFIT特例①では、買取義務者(小売事業者)についても、自社でVREの発電量予測をする必要もなく、一般送配電事業者(TSO)が予測し作成した発電量計画値の通知を受け、それをそのまま自社の発電計画として提出する簡便な仕組みとされている。

 これにより買取義務者(小売事業者)は、それ以降の当該FIT電源の変動に関する同時同量達成義務は実質的に免除されることとなる。

 なお、実際にはFIT電源の発電量は変動するため、買取義務者の計画値と実績値の差分がインバランスとして発生するが、インバランス精算を回避可能費用(≒スポット価格)にて行うことで収支を±0とし、買取義務者に費用面でのインバランスリスクは発生しない仕組みとしている。

図1.FIT特例 不足インバランス精算の例 出典:同時市場の在り方等に関する検討会

 FIT発電量の計画配分については、TSOから買取義務者に対して、1回目の通知が前々日の16時まで、2回目の通知が前日6時までに行われている。

 これは取引量の多い前日スポット市場で確実に売買(計画上振れ時の売電/下振れ時の買電)できるよう、前日スポット市場の締切(10時)を踏まえて設定されたものである。

 また、計画配分(再通知)以降の下振れ(予測誤差)に備え、TSOは前日需給調整市場で、「三次調整力②」としてΔkWを調達しており、この締切時間(14時)については、FIT計画の再通知時間や調整力提供者の応札準備時間を踏まえて設定されている。

図2.FITの計画通知、調整力調達のスケジュール 出典:同時市場の在り方等に関する検討会

 なおFIT特例では、買取義務者にインバランスリスクが無く、発電計画を作成するTSOにインバランスリスクが移転することとなるが、TSOが費用負担することを避けるため、TSOには「インバランスリスク料」を支払うことにより、相償している。

 以上のFIT制度の全体像をまとめたものが、表2である。ただし、FIT特例②などの説明は省略している。

表2.FIT制度の概要全体像 出典:同時市場の在り方等に関する検討会

 またFIP制度は、発電量の固定価格での買取りではなく、スポット市場価格と発電実績に応じた補助金(プレミアム)を支給する、電力市場と連動した(部分的に市場統合された)再エネ導入支援制度となっている。このため、再エネ事業者自身に同時同量達成義務やインバランスリスクが存在する点では、FIP電源は通常の発電リソースや非FIT電源と同様である。

 以上を踏まえ、制度上のインバランスリスク有無の観点から、再エネ電源は以下の表3のように2つのグループに分類される。

表3.インバランスリスク有無による再エネの分類 出典:同時市場検討会資料をもとに筆者作成
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