需給調整市場で「下げΔkW」の調達は行うべきか――8つのケース分析から考えるエネルギー管理(3/5 ページ)

» 2023年11月15日 07時00分 公開
[梅田あおばスマートジャパン]

【ケース1-2】平常時・FIP等再エネ電源の検討

 平常時において、スポット市場価格より限界費用が安いFIP等再エネ電源は高出力帯となり、自然体で一定の(もしくは完全な)下げΔkWを有する状態となる。

 FIP等再エネ電源による下げΔkW供出のための機会費用は存在しないが、FIP電源は、発電量に応じてプレミアムを得ることができるため、下げ調整(ΔkWh)が生じた場合に、プレミアムが得られなくなることに伴う逸失利益を、需給調整市場の入札価格に上乗せすることが考えられる。

 ただしこの場合、火力等電源の下げΔkWが十分にある平常時には、FIP電源の入札価格は火力等電源に劣後することとなり、FIP電源は約定しないと想定される。よって、仮に需給調整市場で下げΔkWを調達したとしても、FIP等再エネ電源には実質的にメリットが無い状態であると言える。

図5.平常時・FIP等再エネ電源のケース 出典:需給調整市場検討小委員会

【ケース1-3】平常時・充電リソースの検討

 充放電が可能な揚水発電・蓄電池は、充放電ロス等を考慮した上で、電力価格が安い時間帯で充電(調達)し、高い時間帯で放電(販売)することが基本的なビジネスモデルであり、スポット市場の価格次第で行動(充電用電力を調達するか否か)が変わると想定される。

 平常時・スポット市場価格が高いケースの場合、市場調達(充電)は実施しないと想定され、充電リソースは結果として、自然体で一定の充電余地、つまり下げΔkWを有する状態となる。

 充電リソースに、下げΔkW供出のための機会費用・逸失利益は存在せず、またV2単価を適切に設定することにより、下げ調整(ΔkWh)に応じるインセンティブを作ることもできる。

 よってこのケースでは、わざわざ需給調整市場で追加コストを掛けて、下げΔkW調達することは、社会コストの増加に繋がり合理的ではないと言える。

図6.平常時・充電リソースのケース 出典:需給調整市場検討小委員会

【ケース1-4】平常時・上げDRの検討

 DRは、需要家構内の生産プロセスや自家発等の運用変更により、上げ調整が可能となるが、上げDRを実施すると、当該時間帯(コマ)では需要家にとって余分に電気料金の支払いが生じることとなる。

 生産プロセスにおける上げDRは、無駄な需要創出による電力消費ではなく、需要の「タイムシフト」で実施する(別の時間帯では生産量を抑制する)と想定するならば、これは需要家構内における充放電ビジネスモデルに近いものであると考えられる。よって、DR事業者と需要家を一体的に捉える場合、これらDR主体は、スポット市場価格もしくはV2単価で電気を購入していることと同義となる。

 ケース1-3の充電リソースと同じく、平常時・スポット市場価格が高い時間帯には、DR主体は市場調達しないことが経済合理的であり、この結果としてDR主体は、自然体で一定の下げΔkWを有する状態となる。

図7.平常時・上げDRのケース 出典:需給調整市場検討小委員会

 DR主体には、下げΔkW供出のための機会費用・逸失利益は原則存在しないものの、上げDRの実施に伴うコストを、需給調整市場の入札価格に上乗せすることが考えられる。

 ただしこの場合、火力等電源の下げΔkWが十分にある平常時には、上げDRの入札価格は火力等電源に劣後することとなり、上げDRは約定しないと想定される。よって、仮に需給調整市場で下げΔkWを調達したとしても、上げDRには実質的にメリットが無い状態であると言える。

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