需給調整市場で「下げΔkW」の調達は行うべきか――8つのケース分析から考えるエネルギー管理(1/5 ページ)

電力系統の安定化に必要な「調整力」。需給調整市場検討小委員会では、現状では需給調整市場で調達を実施していない「下げ調整力(下げΔkW)」について、同市場を通じて調達することが合理的か否かについて、8つのケース分析をもとに検討を行った。

» 2023年11月15日 07時00分 公開
[梅田あおばスマートジャパン]

 電力の安定的な供給のためには、適切な調整力の確保(調達)と運用が必要であり、一般送配電事業者は、ゲートクローズ(GC)以降の需要の上振れや再エネ出力の下振れ、また30分コマ内の上げ側変動に対応するため、需給調整市場を通じて、「上げ調整力(上げΔkW)」を調達している。

 この逆に、GCから実需給までの需要の下振れや再エネの上振れ、30分コマ内の下げ側変動に対応するため、「下げ調整力(下げΔkW)」が必要であること自体は同じであるが、下げΔkWは、需給調整市場では調達しないと整理されている。

 これは、平常時には自然体で下げΔkWが確保されるほか、エリア内の供給量が需要量を上回ることが見込まれる時には「優先給電ルール」により、下げΔkWを確保することができるためである。

図1.下げΔkW(下げ調整力)の必要性 出典:需給調整市場検討小委員会

供給余剰時における現行の下げΔkW(下げ調整力)確保と運用

 現時点、調整電源の大半は火力電源であり、その発電には一定の燃料費を要する。このため、再エネ発電量が多く、JEPXスポット市場価格が0.01円/kWhとなる供給余剰時には、当該火力を停止(もしくは最低出力まで抑制)し、代わりにスポット市場で調達すること、つまり「差し替える」ことが、発電事業者にとって経済合理的な判断となる。これは、特定の火力電源に限らず、供給余剰エリア内のすべての火力電源に当てはまる話であるため、自然体ではすべての火力が自ら停止(もしくは最低出力まで抑制)することとなる。

 ただし、火力を停止(もしくは最低出力まで抑制)することは、当該火力電源が下げΔkWを提供できない状態であることを意味する。このため、一般送配電事業者は、前日スポット市場後のバランス策定(供給力の積上げ時)において、電源II運用により事前に調整電源(火力)の出力を「持ち上げる」ことにより、下げΔkWを確保している。ここで同時に、再エネ電源は抑制されるため、調整電源(火力)と再エネ電源を「持ち替える」ことが発生している。

図2.再エネ電源との「持ち替え」による下げΔkWの確保 出典:需給調整市場検討小委員会

 その後の実需給断面において、下げ調整が行われなかった(下げΔkWとして確保したものの使われなかった)場合、事前に取り決めたV1単価で精算され、これが下げΔkW確保に対する対価の支払いに該当する。

 なお、電源IIの運用から需給調整市場に移行する2024年度以降においても、ΔkW不足を緊急時と見なし、容量市場で要件とされた余力活用契約に基づき、同様の運用を行う予定としている。

 広域機関の需給調整市場検討小委員会では、このような下げΔkWを、需給調整市場を通じて調達することが合理的か否かについて、検討が行われた。

 なお発電事業者が、下げΔkWの対価を得ることを期待して意図的に高出力の発電計画を作成するなどの「ゲーミング行動」は、社会コストを増大させるおそれがある。このため、事業者の同時同量達成インセンティブが十分に働くような制度設計とすることは、大前提とされる。

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