「同時市場」の導入後、調整力の区分や必要量はどう変わるか?エネルギー管理(1/4 ページ)

調整力や供給力のより効率的な調達を目的に導入が検討されている「同時市場」。同市場では調達すべき調整力の「区分」や「量」が変わる可能性があり、その取り扱い方法の検討が進んでいる。現在議論されているその内容や、今後の見通しを紹介する。

» 2023年12月28日 07時00分 公開
[梅田あおばスマートジャパン]

 将来の電力市場の姿として、供給力(kWh)と調整力(ΔkW)を同時に約定させる「同時市場」の検討が、国の「同時市場の在り方等に関する検討会」において進められている。

 同時市場では、市場で調達すべき調整力の「区分」や「量」等が従来制度から変わる可能性があるため、その詳細については、広域機関の「調整力の細分化及び広域調達の技術的検討に関する作業会」(以下、調整力作業会)で検討が進められている。

 時間前市場については、現行制度同様に「ザラバ方式」とする案1と、SCUC(系統制約を考慮した上で、最経済となる起動停止計画)によりkWhとΔkWを同時約定させる案2の2つの案があるが、作業会では、時間前市場も「同時市場」とする案2を前提とした検討が進められており、本稿でもこの前提で報告する。

 なお、本件については既出の記事『日本版「同時市場」導入に向けた重要論点、「調整力」の定義を見直しへ』も参照願いたい。

需給調整市場と同時市場の違い

 2024年度から全商品の取引が開始される現行の需給調整市場においては、一般送配電事業者(TSO)は前週時点および前日時点で調整力を確保しており、2026年度以降は、全商品が前日取引へ移行する予定としている。

 つまり、現行制度(=需給調整市場)では、調整力を供出する電源ラインアップを前日時点でほぼ決定してしまい、それ以降は調整力を確保する機会がないため、前日時点やゲートクローズ(GC)から実需給までの予測誤差等も踏まえたうえで、調整力の必要量を算出し、調達する必要がある。

図1.同時市場での取引イメージ ※2:SCED(系統制約を考慮した上で、最経済となるように経済負荷配分を決定)のみ可能であり、電源の追加起動はできない 出典:需給調整市場検討小委員会

 これに対して、同時市場の導入後(時間前市場も同時市場形式)は、前日取引終了後もGCまで、TSOの残余需要予測等に合わせたSCUCを行うことにより、時間前同時市場において調整力の追加調達(電源ラインアップの補正)が可能となる。

 このように、TSOが調整力を確保するタイミングが変わり、柔軟性が向上することにより、調整力で対応すべき事象やその必要量も変わると考えられる。

 また現行制度では、発電事業者や小売電気事業者といったバランシンググループ(BG)が発電計画・需要計画を作成した上で、再エネ予測誤差(FIT特例①・③)や、GC以降の需要予測誤差など、BG計画を変更・調整できない部分に対応するため、TSOが調整力を確保している。

 これに対して同時市場では、TSO計画も踏まえた上で、前日以降もSCUCを行うことが可能となる。これは、TSOが作成する計画を基準として調整力を確保することを意味するため、調整力必要量を算定する需給バランス計画の実質的な作成主体が、従来のBGからTSOへと変わることとなる。

図2.需給調整市場と同時市場の違い 出典:需給調整市場検討小委員会 現行の調整力商品の同時市場における必要性
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