火力等の同期電源は、同期エリア内のすべての発電機が同じ速度で回転している(同期運転状態)が、何らかの事故により同期はずれ状態(脱調)となった場合、設備損壊を防ぐために、脱調分離リレー等により電力系統から解列させる必要がある。このような脱調は、数百m秒〜数秒といった短時間で進展し、さらなる電源脱落や系統分離による周波数低下等を招き、大規模停電につながるおそれもある。1965年の御母衣発電所事故(中部エリア)では、同期安定性が失われたため複数の発電機が脱調に至り、最終的には、当該エリアの約7割が停電する事象に発展した。
また、中西6エリア(60Hz連系系統)は長距離交流串形系統であるため、エリア間をまたぐ数秒程度の長周期電力動揺(中西安定度の問題)が存在している。事故発生時にはこの電力動揺が増大し、中西全体の系統間脱調が発生する可能性があるため、九州と関西の電圧位相を比較評価することで、同期安定性の限界を超えないように監視している。
「短絡容量」とは、その地点における電圧とその地点から電力系統を見た時のインピーダンスによって定義される。一般的に同期電源が少なくなるとインピーダンスは大きくなることから、短絡容量が小さくなる。また、短絡容量の大きさは電圧維持能力の程度も表しており、短絡容量が小さいほど、系統事故などの擾乱が発生したときの電圧変動が大きくなる。このため同期電源が減少すると、電圧変動が大きくなりやすくなると考えられる。
電圧の変動は、インバータ電源(再エネ)に大きな影響を与え得るものである。電力系統の周波数は同期電源(火力等)の回転速度によって定まるが、非同期電源であるインバータ電源は、周波数の変動を電圧波形を元に演算して検出しているため、系統事故時の電圧の乱れを誤って急峻な周波数変動と検出してしまうことがある。これによりインバータ電源の不要な停止を招き、周波数低下による連鎖的な同期電源の停止を招くおそれがある。
そこで広域機関では、系統の慣性力を示すMsysが最小(RoCoFが最大)であり、短絡容量が非常に小さいと想定される過酷な系統状況を前提として、最大の同期電源脱落量となる電源線ルート事故の影響についてシミュレーションを行った。(2050年想定)
その結果、東北東京エリアでは、電源停止量は1,283万kW(21%)となり、ほぼこれと同量の1,113万kW(18%)もの大規模な負荷制限(一時的な停電)が必要となるものの、大規模停電(ブラックアウト)は回避できるとの試算結果となった。
北海道エリアでは、需要を上回る規模の電源停止(591万kW)となり、大幅な周波数低下や電源停止に伴う急激な潮流変化による電圧安定性の維持に課題が生じると想定され、現時点では具体的に評価することが困難であるとしている。
中西6エリアでは、事故時の急峻な電圧変動の影響により多数のインバータ電源が停止するため、負荷制限を行ってもなお大幅に周波数が低下することにより、エリア間の連系分離に至り、ブラックアウトが起こる可能性があることが明らかとなった。
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