時間前ED市場では、ゲートクローズ(GC)から実需給までの時間を対象に、電源の出力配分を計算するものであり、従来のEDC(経済負荷配分制御)に相当する。具体的には、N時コマを対象に実需給の1時間前(N-1時)に、全参加者の入札を集約し、SCEDを行い約定させるシングルプライスオークションの市場である。
時間前ED市場では、BG(発電・小売)がインバランスを回避するため、GC直前で発電計画や需要計画を修正することなどが想定される。
ただし、時間前ED市場が1日48回(又は2コマまとめて24回)開催され、その都度、その約定結果に基づく発電計画の修正や電源の出力変更が求められるならば、発電事業者は24時間常に市場の約定結果に対応し続けることが必要となり、起動停止を伴わない出力変更のみであったとしても、対応が困難と考えられる。
なお現行制度において、調整電源(調整力として確保された電源及び余力活用契約を締結した電源)の出力変更は、TSOからの稼働指令(中央給電指令所からのオンライン制御)により行われ、発電BGは発電計画を修正する必要がないなど、発電事業者の負担は大きく軽減されている。
時間前ED市場についてもこれを参考として、一部の電源運用をTSOが行う仕組みの導入や、時間前ED市場約定結果をBG計画に引用し、自動的に発電計画の修正を行うシステムの構築など、発電事業者の負担を軽減する仕組みの導入を検討する予定としている。
これらの対応負担を考慮して、時間前ED市場への入札義務の内容や対象事業者については、今後の検討とされている。
さらに、実需給直前までの計画修正を可能とする仕組みとして、ザラバの取引市場を設けることの是非についても検討を行う予定としている。ただし、ザラバ取引は流動性が十分に確保されないおそれがあり、系統混雑を考慮した取引もできないため、安定性・効率性の両面から課題があることが指摘されている。
時間前同時市場の開催回数・開催時刻の検討は、前日同時市場を前日10時に開催する案を前提として、タイムラインの検討が行われているため、あらためて前日同時市場の適切な開催時刻について、検討が行われた。
現行制度では、BG計画の提出締切が昼12時であることを踏まえ、前日スポット市場の入札締切時刻が午前10時と設定されているが、同時市場の導入後は、kWhとΔkWの取引が同時に行われ、計画提出の在り方も変わり得ると考えられる。
現在、翌日の需要や再エネ出力の想定は、気象会社が提供する気象情報を用いて行われており、気象情報は定期的(3時間ごと等)に更新されている。よって、仮に前日市場の入札締切時刻を3時間程度(図5では10時から13時へ)遅らせると、より新しい気象予測値を用いることが可能となり、需要想定や再エネ予測の精度向上が期待できる。ただし、太陽光や風力の出力想定においては、前日の3時間後ろ倒しによる精度向上効果は限定的であると考えられる。
仮に前日同時市場を後ろ倒しする場合、BG計画提出の締切もある程度、後ろ倒しすることが必要となるが、同時市場では、そもそもkWhとΔkWの市場取引は同時に行われ、市場約定結果をBG計画に簡易に引用できる仕組みを設けることにより、市場取引からBG計画提出手続までを一体的に実施することが可能となる。
ただし、BG計画の提出時刻を後ろ倒しにした場合、TSOの再エネ出力制御など、多方面に影響を及ぼす可能性があるため、事務局では慎重に検討を進める予定としている。
導入検討が進む「同時市場」――揚水発電・蓄電池・DRの取り扱いの方向性
蓄電所へのサイバー攻撃リスクが検討課題に 蓄電システムの収益性評価も公開
小売電気事業者に「3年度前の5割の供給力」を確保義務化へ 中長期取引市場の整備もCopyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
人気記事トップ10