ここまで、規制期間に入る前の3カ年(基準活動量・排出量の算定対象期間)における事業所新設等の取扱いを確認してきたが、事業所の新設や廃止は、当然、規制期間中にも起こり得る。
GX2040ビジョンでは、排出量取引制度の導入がGX実現に必要となる事業拡大を阻害することのないよう、本制度の対象となった年度以降に事業所の新設・廃止・活動量の変動等が生じた際には、排出枠割当量の調整を行うこととしている。
よって、規制期間中に事業所を新設する場合(図6左)には、まず新設年度の活動量を1年分に換算し、翌年度以降の割当量を決定のうえ、新設年度の活動量に応じた排出枠を翌年度に追加する。
また、廃止された事業所(図6右)については翌年度以降の割り当てを行わず、廃止年度に過大に割り当てた分については、翌年度に事業者全体の割当量から控除する。
規制期間中に、活動量が過去2年度平均で基準年度から一定水準(後述の7.5%)以上、増加・減少した場合には、翌年度の基準活動量を直近2年度平均に更新して割り当てを行う。また、新設・廃止に対する調整措置と同様に、変動が生じた過去2カ年度分についても、新たな基準と過去の基準の差分を翌年度割当量に追加/控除する。
つまり、対象事業者は毎年度の排出原単位改善を前提としながらも、生産規模の拡大に応じて、排出枠が追加割当されるため、非連続的な事業拡大のインセンティブを損なわない仕組みとしている。他方この場合、制度全体のキャップ(排出枠割当量)は純増となるため、社会全体(世界全体)での排出量の増減にも目配りが必要と考えられる。
調整対象となる活動量変動の水準設定に際しては、活動量の増加に対するディスインセンティブを避けると同時に、活動量の低下によって生じる余剰排出枠が、国内での事業活動縮小へのインセンティブとなることも避ける必要がある。
よって、このような排出枠割当量の調整は、通常の変動の範囲内とは認められない構造的な大きな変動が生じた場合に限って発動することが適切と考えられる。EU-ETSでは、±15%以上の活動量変動が生じた際に調整措置が行われる。
図8の通り、国内企業の設備稼働率は、リーマンショックやコロナ禍等の年を除けば、前年比の変動幅は、ほぼ±7.5%の範囲で生じていることが確認された。なお、制度対象企業がA工場では増産すると同時にB工場では減産するなどのゲーミングを予防する観点からは、変動率は上下で等しいものとすることが望ましい。
以上より経産省事務局では、調整対象となる活動量変動の水準(閾値)を、±7.5%とする案を示した。
なお、グランドファザリング方式については、割当量の算定においてベンチマーク方式のような活動量を用いない。よって、事業活動の規模との関連性や第三者による確認可能性の観点から、活動量に代わる指標として燃料使用量を用いて、割当量の調整を行うこととした。
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