海外エネルギー企業はデータをどう使いこなしているのか──数理最適化ソルバーとAI活用事例(1/2 ページ)

AIの登場によりエネルギー業界においてもより高度なデータ活用の模索が続いている。本記事では代表的なデータ活用手法の一つである「数理最適化ソルバー」の現状とその活用事例、さらに海外エネルギー事業者によるAIを活用した業務最適化の取り組みを紹介する。

» 2026年01月20日 07時00分 公開
[長浜和也スマートジャパン]

 エネルギー業界においても日々新たな手法の模索が続くデータの利活用。最近ではAIの登場によって、より高度なデータ活用に取り組む動きが広がっている。

 こうしたデータ活用を実現するツールの一つとして挙げられるのが“数値最適化ソルバー”だ。複雑な問題を数学的に表現し、その最適解を算出するこの手法は、エネルギー業界のみならず、さまざまな産業で活用されている。さらに最近では、AIと組み合わせることで、より発展的な課題解決にも適用が広がっている。

 では、そもそも数値最適化ソルバーはどういったものであり、具体的にどのような実務で機能しているのか。さらにAIと組み合わせることで、どういった問題解決が実現可能になりつつあるのか──2025年12月4日にグリッド(東京都港区)が東京で開催した数値最適化ソルバーに関連する勉強会では、この問いに具体的な答えが並んだ。

 この記事では「数理最適化ソルバーの現状とその活用事例」から「海外エネルギー企業によるAIを活用した最適化の事例」について現状を整理し、そこから数理最適化とAIがエネルギー企業の“実務”でどのように貢献しているのかを俯瞰する。

Gurobiの「数値最適化エンジン」とは何者?

Gurobi Japanシニアコンサルタントの乾伸雄氏(画像提供:グリッド)

 米Gurobi Optimizationが提供する「Gurobi」は、数値最適化ソルバーの世界で標準の一つとされる存在だ。その社名は創業者3人の名前を組み合わせたもので、設立当初からフルリモート前提の組織運営を続けている。講演したGurobi Japanシニアコンサルタントの乾伸雄氏は、自身もまだ本社に行ったことがないと語り、それだけ社員が世界に分散してオンラインで協働している会社だと述べる。

 顧客企業は世界で1300社を超え、社員は200名以上に達する。そのうち50名以上が博士号を持つ研究開発色の強い集団であり、顧客アンケートでの満足度は97%、NPS(他者に推薦するかどうかを示す指数)は71という高い値を維持している。技術志向と同時に、サポート品質への投資もかなり手厚いことがうかがえる。

 中核ソリューションである「Gurobi Optimizer」は、2008年の初版リリース以降、毎年アップデートを重ねており、現在では初期バージョン比で約97倍の速度向上を果たしている。混合整数計画や線形/二次計画の世界では、1桁の性能差がそのまま「解ける問題の範囲」を大幅に広げてくれる。Gurobiが高速化と数値安定性を重視して投資する理由もそこにあるという。

 同社が掲げるミッションは、高速で汎用性があり、かつ信頼性の高い「最強の数値最適化ソリューション」を提供することだ。国(=言語)や計算環境に依存しない「どこでも動く」実装を重視し、クラウド/オンプレ、Windows/Linuxなど多様な環境との連携を整えている。数値計算の安定性についても、アルゴリズムと実装両面で大きな投資を行っていると強調した。

クッキー工場に山積する「秒単位の制約」を最適化する

 とはいえ、Gurobiが扱うのは抽象的な数式ではなく、現場固有の制約条件が積み上がった意思決定問題だ。その分かりやすい例として取り上げたのが、製菓メーカーのヨックモックにおける生産スケジューリングの最適化案件だ。複数の製品や工場、生産ラインなど、異なる複雑な要素・条件をもとに、秒刻みのスケジュールの最適化を4時間で立案しているという。

ヨックモックが取り組む生産スケジューリングの最適化事例 出典:Gurobi Japan

 クッキーの製造には、焼成ラインと包装もしくは缶詰ラインといった複数の工程があり、それぞれに独立した生産ラインが並ぶ。ヨックモックでは製品数がおよそ500種類、年間生産量が3500万個、工場が3拠点あり、焼成ライン13本、缶詰ライン19本が稼働している。生産計画は秒単位の工程制約を考慮する必要があり、単純なガントチャートではカバーしきれない複雑さを持つ。

 それに伴い、現場の制約も多岐にわたる。賞味期限や鮮度の観点から「焼いてから一定時間以内に次工程へ渡す必要がある」といった時間制約、廃棄や余剰在庫を抑える要求、さらにはラインごとのロットサイズや切替順序もばらばらだ。複数の工場間にまたがる輸送バランスも考えなければならず、従業員の残業やシフトの制約も重なる。商品の切替えも段取り替え時間が発生してスループットを悪化させていた。

 従来、こうしたスケジューリングは、限られた熟練者が経験と勘で組み立ててきた。その結果、特定の担当者に負荷が集中し、ヒューマンエラーのリスクが高まり、他の業務見直しに人が回らないという課題が生じていた。ここに数理最適化モデルを導入し、Gurobiで解かせることで、誰が操作しても同等品質のスケジュールが安定して作成できるようになり、計算時間も大幅に短縮された。空いたリソースを、現場改善や新たな施策検討に振り向けられるようになった点も効果として挙げられている。

NFL日程から製鉄、航空会社まで広がる適用範囲

 ヨックモックのような工場スケジューリングは、最適化ソルバーの典型的な用途だが、Gurobiの適用範囲はそれにとどまらない。乾氏は、象徴的な事例としてNFLの試合日程、製鉄業の石炭ブレンド、エールフランスの機体アサインメントを紹介した。

 NFLの対戦スケジュールでは、テレビ局からの要望として人気チームをゴールデン枠に配置したいという要求があり、一方で人気カードが特定チームに偏らない公平性も求められる。連続アウェーや強豪との連戦も避ける必要があり、チームごとの移動距離や休養日もできるだけ平準化したい。こうした条件をすべて満たしながら日程を組むのは、手作業と簡易ツールでは限界がある。従来は数百パターンの候補しか比較できなかったが、Gurobi導入後は1万パターン以上を生成し、その中からより良い案を選べるようになったという。

NFLの対戦スケジュールでの活用例 出典:Gurobi Japan

 ショービジネスとして高度に進化したNFLにおける試合スケジュールは、実力のバランスとファンの関心度、さらには公平な試合スケジュールを反映して作成するため、放映権、アウェイゲームの制約など、さまざまな要因を考慮しなければならず、スケジュール候補は天文学的な数に達するという

 製鉄業では、コークス製造における石炭ブレンド問題が典型例として挙げられた。数十種類の石炭をどの比率で混ぜるかによって、熱量やコストが変化する。品質条件を制約として満たしつつ、総コストを最小化するブレンドを求める問題として定式化し、その問題を解くことで、年間数億円規模のコスト削減が見込めるという。

 フランスの航空会社であるAir Franceの機体アサインメントでは、便ごとにどの機体を割り当てるかにGurobiを活用。整備スケジュールを守りつつ、遅延の波及を抑え、乗務員の勤務制約を満たし、燃費の良い機体を適切な路線に配置することで、燃料費を1%削減したと報告されている。航空燃料費の絶対額を考えれば、この1%はきわめて大きな経営インパクトとなる。

 こうした事例はすべて、変数・目的関数・制約という数理最適化の基本構造に落とし込まれたうえで、Gurobiの性能を前提にモデル化の射程が広がってきた例と言える。

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