講演では、機械学習と数値最適化ソルバーの役割の違いにも言及した。機械学習は、過去データからパターンを学習し、需要や故障、発電量などを予測することを得意とする。一方で、複雑な制約構造やコスト構造を直接扱い、制約を守りながら最適な行動を選ぶのは本来の守備範囲ではない。
受注情報などの業務データを入力として、目的関数、制約条件、変数からなる数理最適化モデルを構築し、Gurobi Optimizerで最適解を計算するまでの一連の処理フローを示す。確率的に解を生成する生成AIと異なり、数理最適化は厳密な制約を満たす解を導く点が特徴で、製造スケジューリングなど実務での活用を想定している。
数理最適化はまさにその“後段”を担う技術といえる。意思決定問題を変数と制約、目的関数に分解し、機械学習で得た予測値をパラメータとして組み込むことで、制約を満たす最適な計画や投資配分を求めることができる。最新のシステムでは、予測と最適化の組み合わせが前提となりつつあり、そのソルバーとしてGurobiのような製品が使われている、という位置づけになる。
日本オペレーションズ・リサーチ学会副会長の経験者で、現在は東北電力で事業創出部門アドバイザーを務める出馬弘昭氏からは、海外エネルギー分野におけるAI活用事例が紹介された。出馬氏はもともと大阪ガスでデータ分析部隊を立ち上げ、LNG船隊の配船最適化などにオペレーションズ・リサーチ(=複雑な課題を科学的に解決するための問題解決手法、以下OR)を適用してきた経歴を持つ。その後東京ガスに移り、シリコンバレーでCVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)を立ち上げ、AI事業のスタートアップや水素、カーボンキャプチャー関連のスタートアップとの協業に携わってきた。
1990年代末から2000年代前半にかけて、国内のガス会社では、経営意思決定支援や現場オペレーション最適化といったOR的なアプローチを一通りやり尽くしたという実感があるという。当時の主役は機械学習ではなく数理最適化であり、LNG船の運航計画や配船などは、航空会社の機体アサインとほぼ同型の問題として解かれていた。
その後、視野を海外に広げてみると、エネルギー企業とテック企業/スタートアップが連携しながら、AIと最適化を前提としたユーティリティへと変貌しつつある姿が見えたという。
イタリアの電力大手Enelは、AWSと連携してクラウドへのシステム移行を進め、その上に機械学習基盤を構築した。Enelはこの基盤上でおよそ250個の機械学習アプリケーションを一気に開発して運用している。
代表的な機械学習の活用事例が送配電網の予兆保全だ。Enelはヘリコプターや車載カメラで高解像度画像を年間4000万枚以上収集しただけでなく、LiDARによる3D計測データも組み合わせたデータをAIで解析し、設備の劣化や樹木の接近などの異常兆候を早期に検出することで、送配電網のトラブル発生をおよそ40%削減したという。
Enelはスタートアップを束ねるデジタル子会社Enel Xを設立し、社内向けシステムの内製開発と顧客向けデジタルサービスの両方を提供する「エネルギー×デジタル企業」へと変貌しつつある。再エネを供給する電力会社であると同時に、AWSやGoogle、Microsoftから技術提供を受ける「テック企業のパートナー」という二重の立場を取り、世界各地のイノベーションハブでAIやグリーン技術を持つスタートアップとの協業を進めている。
ドバイ電力・水道局(DEWA)は、MicrosoftやGoogle、DataRobotなどと協業しながら、2020年代前半に自らを「AIネイティブ・ユーティリティ」と称し、コア業務のすべてにAIを組み込むことを宣言して社内のプロセスに機械学習モデルを展開している。
中東では、石油・ガス依存からの脱却が共通の課題となっている中で、製造業のサプライチェーンをイチから構築するよりも、デジタルやAIに投資する方が立ち上がりが早いという判断が働いている。その結果として、AIユーティリティ事業者が「ポスト石油」のAI産業構築を先導する勢いとなっている。
サウジアラムコも同様に、石油会社であると同時にデジタル企業としての色彩を強めている。デジタル子会社Aramco Digitalが中心となり、数十年分の地質・油田データや、石油製品の需給・価格データを学習させた産業用大規模言語モデル(LLM)の開発を進めている。ここでも、予測や知識検索をAIに担わせ、その上で最適化モデルによる設備投資や運用の意思決定を支援する構図が想定されている。
AIソリューションの導入としては、他にも、太陽光パネル施工ロボット、送電網への接続申請チェック、業界共通のAI基盤、AIスタートアップ投資など、多数の事例が挙がっている。
米国の電力会社の中には、AWS(Amazon Web Service)と協業して太陽光パネルの敷設ロボットを開発し、カメラ画像で周囲状況を認識しながらパネル配置を自動化することで、施工期間とコストをおよそ半分にしたところもある。PJMのような独立系統運用機関は、Googleと組んで再エネ発電所やデータセンター、変電所などの接続申請書類をAIでチェックする仕組みを構築し、年間数千件レベルの申請処理を効率化しようとしている。
米国の電力研究所EPRIは、NVIDIAと連携して電力業界向けの共通AI基盤づくりを進めており、2024年前後には電力会社が共通で利用できるモデルやアプリケーションを整備する枠組みを立ち上げている。この枠組みには中部電力も参加しており、日本のユーティリティもグローバルな標準化の流れに関与し始めている。
一方、英国の送配電会社で米国でも事業展開を進めているNational Gridは、総額2.5億ドル規模のファンドを用意し、衛星データによる送電インフラ監視や地中インフラの可視化、契約ワークフローの自動化など、AIスタートアップへ投資を積極的に行っている。
また、米国の公営電力会社Salt River Project(SRP)と同国のスタートアップ企業Emerald AIが、データセンター内におけるAIの利用による電力消費を、系統の調整力として活用する事例も紹介された。これは電力需要のピークをAIで予測し、データセンター内の重要度の低いAI学習やバッチ処理をピーク時間帯からシフトさせる取り組みで、SRPが管轄するエリア内のデータセンターにおいて、ピーク電力を25%削減したという。
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