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バイラルマーケティングには可視化とリスペクトが必要だ(下)ネットベンチャー3.0【第19回】(2/2 ページ)

» 2006年12月08日 11時00分 公開
[佐々木俊尚,ITmedia]
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企業の要求とブロガーの自主性

 しかし前回も書いたように、こうした企業の思惑に対し、ブログがあまりにも企業によってコントロールされてしまうことに対しては、ネットの世界からの強い拒否感がある。プレスブログはこの問題に、どのようにして取り組んでいるのだろうか。

 まず第1には、報酬金額の問題だ。たとえば報酬が数万円という金額になった場合、仮に「自由に書いてください」と企業の側が鷹揚に構えたとしても、そこにはさまざまな自主規制が働いてくる可能性がある。「こんなにもらったんだから、いいことを書いてあげなければ」という自主規制だ。したがって金額を高くすることは、決して良い結果は招かない。

 前出のエニグモ田中氏は、「プレスブログは今後、報酬を低めにおさえ、そのかわりに全体の母数を大きくしていくという方向に進んでいくことになると思う」と話す。たとえば企業が30万円の従量制広告料金を支払った場合、ひとり3000円で100人にブログに書いてもらうのではなく、300円の報酬で1000人に書いてもらう方が良いという考え方だ。影響力の強い特定のブロガーに高い金額を支払うようなモデルでは、いずれ「広告と表現のバランス」が崩れてきてしまう可能性があり、こうしたブログマーケティングの可能性をいたずらに摘んでしまうことになりかねない。そのような「ブログを書かせる」という企業主導の方向性ではなく、「おもしろいネタがあったから、ユーザーがブログに書く」というユーザー主導の方向性へと進んでいくのが健全ではないかというのである。

 「金銭を払ってエントリーを書いてもらうのではなく、商品やサービスの内容に共感したから書いていただくという要素を増やしていきたい。面白い情報があれば、人は金銭が発生しなくてもエントリーを書くわけだから、『ブロガーに面白い話題を提供する』という方向性へと迎えないかと考えています」(田中氏)。つまりは企業の商品・サービス情報と、ネタを求めるブロガーのマッチングビジネスのような可能性を考えているということなのだ。

 報酬と並ぶもうひとつの問題として、主導権の問題がある。ブロガーが主導権を握るのか、それとも企業の主導権なのかという問題だ。たとえばプレスブログでは、元ネタがプレスブログ経由かどうかをブログに書くかどうかについては、ブロガーに任せている。「プレスブログで知った」と書いても構わないし、あるいはいっさい記載しなくても構わない。またクライアント企業からは、「プレスブログ経由だとエントリーに表示してほしい」という要請はブロガーに伝えているが、「プレスブログのことは書かないでほしい」という注文は受け付けていない。またエントリーで商品・サービスをどのように紹介するかについても、運営側が判断して一方的な誹謗中傷でなければ、掲載可としているという。批判や文句は構わない、というガイドラインだ。

 田中氏は話す。「画像を入れてほしいとかキャッチコピーを入れてほしいといった企業側の掲載条件が多くなると、どうしても広告臭くなってしまって読者に受け入れられない。だから『掲載条件を縛らない方がいい』ということは企業側に常に提案している。プレスブログをスタートさせた直後は、何でもコントロールしたがる企業が少なくなかったが、しかしブログにおけるクチコミマーケティングの意味が理解されるようになってきて、そうした企業は徐々に減ってきました」

 ブログはコントロールできるものではない。企業がマーケティングとして行えるのは、ブロゴスフィアという大きな海に情報を投げ込むという作業だけだ。しかしその情報を投げ込む際には、かなり難しいキャスティングの技術が必要になる。うまくターゲッティングされた消費者層に情報を投げ込み、そして同時にマーケティングプロセスの可視性を担保し、ブロガーの自主性も担保していかなければならない。非常に難しい舵取りが必要なビジネスであると思う。

(毎週金曜日に掲載します)

佐々木俊尚氏のプロフィール

1961年12月5日、兵庫県西脇市生まれ。愛知県立岡崎高校卒、早稲田大政経学部政治学科中退。1988年、毎日新聞社入社。岐阜支局、中部報道部(名古屋)を経て、東京本社社会部。警視庁捜査一課、遊軍などを担当し、殺人や誘拐、海外テロ、オウム真理教事件などの取材に当たる。1999年にアスキーに移籍し、月刊アスキー編集部デスク。2003年からフリージャーナリスト。主にIT分野を取材している。

著書:『徹底追及 個人情報流出事件』(秀和システム)、『ヒルズな人たち』(小学館)、『ライブドア資本論』(日本評論社)、『検索エンジン戦争』(アスペクト)、『ネット業界ハンドブック』(東洋経済新報社)、『グーグルGoogle 既存のビジネスを破壊する』(文春新書)、『検索エンジンがとびっきりの客を連れてきた!』(ソフトバンククリエイティブ)、『ウェブ2.0は夢か現実か?』(宝島社)など。


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