iPadと電子書籍が作り出す情報の「エコシステム」に期待――アイティメディア藤村氏iPad on Businessperson

ITニュースサイト「ITmedia」の代表取締役会長である藤村厚夫氏もiPadの熱心なユーザーだ。裁断した本を、PDFファイル化してiPadに入れたこともある。「本はね、しまいこんで探せなくなると意味がない。なぜなら、その本を持っていないに等しいから」

» 2010年08月06日 18時58分 公開
[大木豊成,Business Media 誠]
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 iPadを仕事道具へと変える――。ビジネスパーソンや企業経営者向けに、iPadの概要とビジネスにおける活用術や、iPadそのものが持つビジネスチャンスの可能性などを紹介する書籍『iPad on Business』。この連載は、同書を抜粋、再編集したものです。


 ITニュースサイト最大手「ITmedia」を運営するアイティメディアの代表取締役会長である藤村厚夫氏が、iPadを手にしてまず行ったのは、紙の本を裁断し、自分でPDFファイル化してiPadに入れたことだそうだ。

 「本はね、しまいこんで探せなくなると意味がない。なぜなら、その本を持っていないに等しいから」――。

書籍の電子化で分かった検索インデックスの重要性

 すでにiPhoneのヘビーユーザーであった藤村氏がiPadを手にしてまず思ったのは、リーダーとしての使い勝手の良さだった。紙の書籍をPDF化してiPadに入れておけば、いつでも手元に置いておいて読むことができるし、何よりキーワードで検索したり、ブックマークできたりすることに気がついた。

 現在の紙の書籍は、タイトルや著者、出版社までは分かっても、その中身まではほぼ検索できない。しかし、本や書類も、電子データにすることで検索性が高まる。藤村氏は自らの書籍を電子化することで、その重要性を認識したそうだ。ただし、iPad上にデータ化された書籍があるということが不満だとも語る。

 「クラウドでこれらのデータがインデックス化されてこそ、電子書籍の価値が出るだろう」

 一方で、アイティメディアというコンテンツメディア事業を行なっている企業の会長を務める藤村氏だが、その立場からは電子書籍というコンテンツをどう見ているのだろうか。「アイティメディアはソフトバンクグループの一員だが、今のところ自由な立場で取り組んでいる」と前置きした上で、Web上におけるコンテンツの伝達ルートが変化しつつあることに着目すべきだと語る。

送り手が受け手を選べる仕組作りが必須

 Webでの情報発信は、今でも広告収益型のビジネスモデルが中心だが、このモデルの仕組みは十数年前に作られたものであり、その価値基準が変化してきている。そして、コンテンツの伝達ルートは複数になり、SNS(ソーシャルネットワークサービス)に至っては、そこから出なくても情報を得られるようになった。

 藤村氏は「これまでのコンテンツというのは、送り手側が受けとり先のさらに先を考えていなかった。しかし、既存の伝達ルートの途中に、影響力を持つ特定のハブ(中継点)が形成され、そこからさらに発信してもらうという仕組みを作ることで、新たなコンテンツの流通方法が生まれるのではないか」と語る。

 藤村氏はこの仕組みを「情報のエコシステム」と呼んでいる。情報の受け手がその情報を引用したり、口コミしたり、あるいは保管したりするといった行為を、「コンテンツの生態系」として着目しているというのだ。そして、特定のプロファイルを持った人のみにアクセスしたいといった場合に、このシステムをうまく使った電子書籍の配信が有効ではないかと考えている。

 さらに、藤村氏はそのシステムの上で電子書籍として配信されるコンテンツについてこう語る。「コンテンツに対する『カスタマイズ』や『パーソナライズ』といった視点が、これからのキーワードになり得るのではないか」

 電子書籍という言葉が使われて久しいが、いまだにその完成型が語られることは少ない。しかし、藤村氏の視線は、「電子書籍」のデバイスやアプリケーションへはもちろんだが、すでにその先にあるコンテンツが持つべきテーマや新たな情報の流通方法までに向いているようだ。

iPad on Businessperson:藤村厚夫(ふじむら・あつお)

アスキーにて、書籍の企画・編集を経てネットワーク系技術専門誌編集長を歴任。1998年、ロータスに入社、戦略企画/マーケティング本部長を担当。2000年、アットマーク・アイティ設立。2005年、ソフトバンク・アイティメディアとの合併統合によりアイティメディア発足。現在、同社代表取締役会長を務める。


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