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» 2009年06月25日 19時11分 公開

ダウンサイジング決意の瞬間:システム再構築における「インフォームドコンセント」 (2/2)

[富永康信(ロビンソン),ITmedia]
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ITベンダーの無神経な提案がダウンサイジングを決断

 例えば、年末の繁忙期になると荷物が大量に動き、CPUの負荷が次第に逼迫してくる。それを見越してベンダーからCPUの増強提案がなされるのだが、簡単に数千万〜数億円の見積りが出てくると、三原氏は苦々しい表情で打ち明ける。

 「当社では、1億円かけてCPU増強しようとすると、その投資費用捻出のために、セールスドライバーがそれなりの個数の荷物を運ばなければならない。年末の繁忙期をしのぐために、それだけのコストをホストに投資する価値があるのかという思いが、ダウンサイジングを決断させた」(三原氏)

 ベンダーに依存したシステムから、柔軟性や拡張性を持つオープンなシステムへの移行によって、オープンな調達やスキルの標準化、業務の効率化を実現し、高コスト構造から脱却することが現在の最大のテーマになっているという。

 佐川急便のダウンサイジングプロジェクトは、主に、貨物システムを対象とする「プロジェクトA」と、勘定系を対象とする「プロジェクトB」の2つで推進されている。

 佐川急便の1万人以上の社員が利用する貨物システムは、NECのメインフレーム「ACOS I-PX7800」とインターネット貨物サーバ「Himalaya S7400」(当時のコンパックコンピュータ製)で運用されていた。データ量は21テラバイト、プログラムはCOBOLで1万6000本(貨物と勘定系合わせて)、毎日1億件(ピーク時は毎秒2000件)のデータが更新され、顧客からの問い合わせは1時間当たり11万件にも及ぶという日本最大級のシステムを、およそ3年をかけてCOBOLをJavaに移行し、IAサーバに移植するなどでダウンサイジングしてきた。

 2009年3月時点でのシステム再構築における効果だが、旧システム初期+増強分からオープン調達によって新システムに移行した場合を比較すると、ハードウェア調達面では6分の1、ソフトウェア調達では9分の1に圧縮したという。

 同様に、スキル標準化による効果としては、ベンダーロックインから開放されることで、貨物保守と勘定系保守を合わせた費用が6割減、貨物運用人員が1割減となった。

 また、業務効率化の効果としては、旧貨物システムの950画面から新貨物システムの550画面へ4割減、帳票数も1650件から370件(紙・電子合わせ)へと8割減とさせ、さらにインタフェースの接続定義では約2万1000種から約1万6800種へと2割削減している。

 「画面や帳票などは、"あったらいいな"から、"これをなくしては業務が成り立たない"というレベルにまで排除し、整理・統合している」(三原氏)

業務効率化のダウンサイジングでは画面、帳票、インタフェースともギリギリのレベルまで削減・集約する

IT再構築のインフォームドコンセントと3つの教訓

 従来は、佐川急便やSCSにさまざまなベンダーが群がり、ベンダー主導による推進体制になってコントロールが効かない状況だったが、今後はSCSがベンダーをコントロールし、同時に信頼できる参謀企業(同社の場合はフューチャーアーキテクト)を参画させることで、オープン化に重要なベストチョイスとベストな組み合わせによるベストな推進体制を組んでいるという。

 医療の世界では手術に際してインフォームドコンセント(医療行為や治験における患者や治験者に対する説明責任と合意形成)が不可欠なように、例えば、貨物システムの再構築にあたっては段階的移行に備え、旧システムと新システム間との連携を行うインタフェースを構築し移行の安全性を高めるところから始め、その後貨物データベースを新システムの中に構築し、旧システムとのデータを比較検証して整合性を確立した上で、貨物照会の機能を最優先で移行しハードウェアの追加投資を抑制する。

 「情報システムを解体・再構築する際は、医療行為と同様に何をいつまでにどのような仕組みを取り入れるのかを明確にし、佐川急便とSCS、参謀企業とが共通認識を持ちながら進めていくことが大事」だと三原氏は指摘する。

 また、同社のような大規模なダウンサイジングプロジェクトを推進する中で、3つの教訓が得られたという。

 その1つは危機感と求心力。同社の場合は、年末の繁忙期にはCPUパワーが不足するといった危機感だった。それをトップマネジメント層と共有してプロジェクトに巻き込み、システム再構築による効果をからめた求心力につなげていった。

 2つ目は目的と目標を履き違えないこと。仕組みを作ることとコスト削減の効果を出すことは別のこと。コスト削減効果を出すのは利活用部門であるため、きちんと協力体制を組んでコミットすることでプロジェクトの目的が達成され、効果が出るという。

 3つ目は仕組みの稼働後に想定されるリスクの共有。新たな仕組みを取り入れることはそれなりのリスクが伴うため、利活用部門に理解を求めながら進めることが必要だったという。

経営に直結するビジネスモデルを支える攻めのIT投資

 これらの取り組みによって、2004年度比較で2008年度には40億円近くの削減を達成し、当初は2015年に110億円の戦略投資余力を生み出す計画も、1年ほど前倒しで達成できそうだと三原氏はいう。それまでの削減規模は累計で数百億円も創出されることになる。

 気になるのは、この戦略投資余力の向け先だが、まずITが経営を先回りできるようにするためのITに関する研究開発に注力するという。

 「例えば、従来なら経営戦略から業務改革が行われて、IT構築に進むのが定石だったが、今後はオープンのリアルタイム環境を作ることで、経営戦略や業務改革に耐え得る基盤を構築しておき、いつ何時M&Aや経営統合が実施される事態が起ってもITがボトルネックにならないよう、経営がフリーハンドで対応できるようにしていく」(三原氏)

 そして、経営に直結する新たなビジネスモデルを支える攻めのIT投資に利用するという。佐川急便では、これまでITに経営と業務が束縛され、顧客データと貨物データ、勘定系のデータがかつてはばらばらで構築されていたが、プロジェクトA(貨物システムの再構築)では貨物と顧客データを統合し、プロジェクトB(勘定系システムの再構築)が完遂したあかつきには、顧客+貨物+勘定系が有機的に統合され、新ビジネスモデルの派生やマーケティング手法も生まれてくる。それを三原氏は何よりも期待している。

11年間で累計数百億円規模の戦略投資余力を創出する見込み
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