消費者を顧客に変えるプロセスをマーケティングファネルと呼ぶ。ファネルは「じょうご(漏斗)」という意味だ。ファネルは、その形状から分かるように、入り口が大きく出口は小さい。マーケティングファネルとは、見込み顧客が実際の顧客になる様子を示している。
マスメディアへの広告出稿や広報活動といった従来のマーケティング手法は、ファネルの入口に消費者を集めることはできる。だが、その中で起きる顧客の認識の変化には、何の作用も与えられなかった。
つまり、従来の代表的なマーケティング手法で消費者に自社ブランドの認知を促しても、消費者がどういう認識で実際の購買行動を起こすかを見聞きすることはできない。企業は顧客のマインドシェアを調査できても、どのような動向で他社ブランドとのシェア争いが決められているかを知るすべがなかった。
実社会の消費者行動を示すとして有名な「AIDMA」や、検索エンジンの重要性が認識される中で電通が指摘した「AISAS」といった仮説は、こうしたプロセスから生まれた。だが、購買意欲をはじめとする人間の心理プロセスは、そうそう論理的ではない。
AIDMA(アイドマ):「Attention(注意・注目)」「Interest(興味・関心)」「Desire(欲求・購買欲)」「Memory(記憶・保留)」「Action(行動・購入)」という消費者の心理プロセスを示した略語。1920年代に米国の販売・広告に関する実務書を上梓したサミュエル・ローランド・ホールが著作内で記述した。
AISAS(アイサス):「Attention」「Interest」「Search(検索)」「Action」「Share(共有)を指す。マーケティングにおける消費行動のプロセスに関する仮説の1つで、消費者の購買にまつわるプロセスが5つのプロセスから成り立つとする理論。特に電子商取引のマーケティングモデルとして参照される。広告代理店の電通などが提唱した。
ソーシャルメディアは、マーケティングファネル内の消費者の考えや行動をWeb上に再現して、デジタル化する役目を担い始めている。消費者は自分たちの心の中の動きを、ソーシャルメディアを通じてWeb上にテキストとして書き出しているといってもいい。
この動きを後押ししたのがTwitterだ。Twitterは実社会で何が起きているか、自分たちが何をしているかを、140文字でリアルタイムに発信できる。Twitterをはじめとしたソーシャルメディア上のコンテンツやコンテクスト(文脈)を時系列に沿って研究すれば、消費者の行動――マーケティングファネル内の動き――がある程度解読できるようになっている。ソーシャルメディアは、マーケティングファネルの中を明るく照らすサーチライトのようなものだ。
マーケティングという戦争を勝ち抜くためには、その戦場にいる顧客をつかみ、心の中のシェアを奪わなければいけない。その戦場の特性を理解し、優位に戦闘を続けていくには、マーケティングファネル内の消費者が顧客に変わる一連の変化を知る必要がある。
そのためには、ソーシャルメディアという新しいメディアを理解し、うまく活用していかないといけない。企業がソーシャルメディアマーケティングを行う意義は、ここにある。
2009年2月23日に電通が発表した「2008年(平成20年)日本の広告費」によれば、4マス、セールスプロモーション、インターネット広告、衛星メディア関連を含めた広告費は6兆6926億円(前年比95.3%)と推定されている。中でも、インターネット広告を除く4マス全体の広告費はここ数年で著しく減り続けていることが分かる。
だが、広告費が縮小されても4マス広告への出稿やマーケティング活動そのものがなくなってしまうわけではない。あらゆる企業は、ソーシャルメディアがWebの主役に変わりつつあることを認識した上で、従来のマーケティング戦略を見直し、ソーシャルメディアを加えたすべてのマーケティング手法を組み合わせた戦略を構築しなければいけなくなっているのだ。
モディファイ CEO兼クリエイティブディレクター。商社にて東南アジアを中心に活躍後、1996年にマレーシアにて独立。帰国後、日立製作所にてイントラブログシステムなどの企画を手掛けた後、サイボウズのネット関連子会社フィードパスのCOOを務める。2008年にモディファイを創業した。著書に『ソーシャルメディアマーケティング』などがある。同書に関連する情報は、Twitter上のハッシュタグ「#smm2010」で共有している
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