世界で勝つ 強い日本企業のつくり方

やり直せる時代の新教育論(4)世界で勝つ 強い日本企業のつくり方

ソフトバンクなどさまざまな企業において豊富なビジネス経験を持つオルタナティブ・ブロガーの大木豊成氏に、新たな教育論を話してもらう企画の第4回。

» 2010年02月02日 08時00分 公開
[大木豊成,ITmedia]

 ソフトバンクなどさまざまな企業において豊富なビジネス経験を持つオルタナティブ・ブロガーの大木豊成氏に、新たな教育論を話してもらう企画の第4回。第1回はこちら、第2回はこちら、第3回はこちらです。


教育者の誇り

 教育者の誇りというと、学生や児童にかかわる教育者だけをイメージしてしまいがちですが、ここでいう教育者は、社会人として社内研修やOJTにかかわる方々も含んでいます。

 教育という単語は「教える」と「育てる」という文字から構成されています。読んで字のごとくということで、「教える」だけではなく「育てる」ことが必要になってくるわけです。もちろん、小学校から大学あるいは専門学校、短期大学、高専といった高等教育に携わる教員、教育指導者の誇りについても考える必要があります。

 学校教育の現場にかかわってみて感じることは、教員という仕事は「教育」だけではないということです。これは日本特有だそうですが、意外に事務作業が多いのです。報告書類作成、資料作成を含め、本来なら事務方でやるのではないかと思われる仕事まで教員が担当しています。以前、東京学芸大学の学生から聞いたのですが、事務作業が多過ぎて教育に専念できない教員が多いとのこと。事務方の処理能力やスキルの問題もあります。

 しかし、それだけではありません。特に公立の学校では、こういった傾向が強いということです。これでは教育者としての誇りどころか、本来の業務に没頭できないことになります。

 とはいっても、日本全体の教育の仕組みを変えるのは容易ではありませんし、そのことで目の前の学生の成長を妨げることになってはいけないので、日々の仕事を頑張っている教員が多いのです。

 しかし、学生の親はそんなことは知る由もなく、中には好き勝手に文句を言う人がいます。一時話題になっていたモンスターペアレンツとは言わなくとも、もっとこうしてほしい、こうするべきではないか、といった論理を振りかざす前に、わたしたちは現状を知る努力が必要なのだと思います。現状を知った上で、親として何ができるのか、自分たちがどういう教育をするのか、を考えるべきなのです。

 「お前の好きなようにするがいい」だけではいけないことは、中村昭典氏著「親子就活(アスキー新書)」を参照いただければ分かります。

 一方で、会社の教育現場はどうなっているでしょうか。例えば新入社員教育をどうしているか。会社の規模によって全く異なりますが、大手企業の中には外部業者に丸投げしているケースが少なくありません。

 外部業者を活用すること自体は問題ありませんが、丸投げしてしまった結果、内部の現状と懸け離れてしまう恐れがあります。わたしが知る会社でも過去に、教育を外部に委託していたのですが、現場に配属された新入社員が「研修の時と全然違う」という理由でまとめて退職してしまったことがあります。これではせっかく費用を掛けて研修しても、本来の目的を達成していないことになります。

 新入社員だけではありません。わたしたちは、学校、例えば22歳で大学を卒業したとして、現在は65歳定年ですから、43年間働くわけです。その43年間働き続けるだけの知識や知恵を、小学校から大学までの16年間で身につけているはずがありません。大学を出ても、勉強し続けなくてはならないわけです。

 本人の努力も必要です。しかし、教育指導者としては「本人に丸投げ」もまずいわけです。だから、上司や先輩がいろいろと教えることになります。

 わたしは、ここのところを「やらされ感」でやってはいけないのだと考えています。やらされ感でやっている上司は、やる気も出ませんし、思ったように学習しない部下に腹を立てます。だから、だんだん言い方もきつくなる。「やらされ感」で教えている上司に向き合っている部下は、その雰囲気が伝わってきますから、焦りを感じてしまったり、あるいは逆に嫌になってしまうことになります。これでは、お互い時間の無駄ということになります。

 教えることになる上司は、誇りを持って臨むべきです。なぜなら、自分は教える側に回るほど成長しているのですから。そして、人に教えることは、体系立てて理解していないと教えられないわけですから、自らも事前に勉強することになります。教えるための資料を整理したり、順序を考えたりするわけです。そのことで、自らも成長できる機会を得られるわけです。

 もちろん上司も人間ですから、常にやる気を保ち続けられないかもしれません。部下が褒めてほしいように、自分も誰かに褒められたい。そんな気持ちになるのは当然だと思います。しかし、それを克服できる人が、心の面でも実務面でも、より上に近くなるのだと思います。

 人は、やらされ感を感じながら行動するときと、自ら取り組むときでは、明らかに結果に違いがでることは、読者の皆さまも感じていると思います。誰も励ましてくれないことを嘆くよりも、自分を信じて、自分を応援し続けられることができる、もう一人の自分であるべきなのです。

 わたしが20代のころは、本当に誰も励ましてくれませんでした。今は、TwitterSNS、ブログなど、いろいろなところで見ず知らずの人とコミュニケーションを図ることができます。実名か偽名かという議論もありますが、愚痴を言うのであれば偽名でもいいのだと思います。自分の愚痴を言って励ましてもらう。ただし、励ましてほしいのであれば、自身も他人を励まさないといけません。コミュニケーションレベルを上げるトレーニングにもなります。

 教育者、教育指導者、それぞれに紆余曲折はあっても、教えて育てる側の人間として、誇りをもって取り組んでいっていただきたいものです。

著者プロフィール:大木豊成(おおき とよしげ) 

大木豊成

人材育成コンサルタント。米国PMI認定ProjectManagementProfessional取得。シンガポール大学卒業後、数々の事業立ち上げおよび企業立ち上げを経験。ソフトバンク在籍中の経験を「ソフトバンク流『超』速断の仕事術」(ダイヤモンド社)にまとめて出版した。現在はコンサルティング業のかたわら、専門学校での非常勤講師、講演などに奔走する。


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