SAPがみせたクラウド時代のパートナー戦略Weekly Memo(2/2 ページ)

» 2010年04月12日 08時10分 公開
[松岡功ITmedia]
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ERPのクラウドサービス化の布石か

 「SAPもクラウドには注目している。ただし、(ERPのような)基幹システムをクラウド環境で利用するには、その信頼性をきちんと検証する必要がある。とはいえ、今後は基幹システムもクラウド化する方向に行くだろう。SAPはそうした変化をしっかりと支援していきたい」

今後の事業戦略を説明するSAPジャパンのギャレット・イルグ社長 今後の事業戦略を説明するSAPジャパンのギャレット・イルグ社長

 SAPジャパンのギャレット・イルグ社長は、同社が4月8日に開いた事業戦略説明会でこう語った。イルグ氏は今後の事業戦略における注力分野として、BIと中堅・中小企業向け事業を挙げた。そして、それぞれのクラウドへの取り組みについては、BIは富士通との提携に触れ、中堅・中小企業向け事業はSaaS型ERPとして注目される「Business ByDesign」の日本市場への投入が、2011年半ばになることを明らかにした。

 では、なぜ今回の富士通との提携が、SAPのクラウド事業への取り組み方を示唆しているように受け取れるのか。それはSAPのローカルなパートナー戦略と推測できるからだ。

 SAPは富士通のクラウド基盤を活用することで、社内の機密情報を国内にとどめたいとする日本企業のニーズに対応したとみられる。日本企業には、機密情報は日本のデータセンターに置きたいというニーズが強い。海外で情報漏えいなどの問題が起きた場合、外国法が適用されるなど対処に手間が掛かる可能性があるからだ。

 そこでSAPがパートナーとして選んだのは、ERP分野でグローバルに協業を進めている富士通だった。そこには、顧客に安心感を与えるクラウド基盤を提供できるとともに、強い販売力を持つパートナーと組むという同社としての狙いがあったとみられる。これはERPのクラウドサービス化の布石とも見て取れる。

 一方、SAPはNECともERP分野で緊密な提携関係にあることから、ERPのクラウドサービス化についてはNECとの関係強化の動きもあるかもしれない。

 こうしてみると、SAPはローカルの有力なデータセンターを活用しながら、同社ならではのクラウド時代のパートナー戦略を構築していこうという意図があるようだ。今や120を超える国に9万5000社以上の顧客企業を有するSAPが、果たしてどのような戦略を描こうとしているのか。アプリケーションベンダーとクラウドベンダーの今後の力関係を占う意味でも大いに注目される。

プロフィール 松岡功(まつおか・いさお)

松岡功

ITジャーナリストとしてビジネス誌やメディアサイトなどに執筆中。1957年生まれ、大阪府出身。電波新聞社、日刊工業新聞社、コンピュータ・ニュース社(現BCN)などを経てフリーに。2003年10月より3年間、『月刊アイティセレクト』(アイティメディア発行)編集長を務める。(有)松岡編集企画 代表。主な著書は『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。




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