スマートシティ大国オランダに学ぶビッグデータの利活用戦略ビッグデータ利活用と問題解決のいま(1/3 ページ)

EU諸国の中でオランダは、地域主導型スマートシティから築き上げた付加価値サービスの上に、クラウドやビッグデータの新技術を組み合わせながらグローバル展開を図っている。同国の事例を紹介しよう。

» 2015年02月05日 08時00分 公開
[笹原英司ITmedia]

非エネルギー分野へと拡大するオランダのスマートシティ

 日本では2010年4月、「次世代エネルギー・社会システム実証地域」として横浜市、愛知県豊田市、京都府のけいはんな学研都市、福岡県北九州市の4地域が選定された(「ジャパン・スマートシティ・ポータル」参照)。この当時、参照モデルとして利用されたのがオランダのアムステルダムである。

 2009年6月にアムステルダムは、地域住民、中央/地方政府、企業、教育/研究機関などが連携して、2025年までにCO2排出量を1990年比で40%削減するという目標を掲げている。これに加え、持続可能なリビング、持続可能なモビリティ、持続可能な公共空間、持続可能な職場の各領域にフォーカスする「アムステルダム・スマートシティ・プログラム(ASC)」を開始した。

 ASCプロジェクトは、フェーズ1:可視化フェーズ2:ロードマッピングフェーズ3:パイロットプロジェクトフェーズ4:フルスケールの稼働開始の4段階から構成され、2009年から2010年の間に、スマートメーター、スマートライティング、ビルエネルギー管理システム(BEMS)、電気自動車(EV)など、環境・エネルギー関連技術を中心とする約20のパイロットプロジェクトが実施された。

 現状の日本の4地域を見ると、2010年から2014年までの5カ年計画による社会実証期間が終了し、地域エネルギー・マネジメント・システム(CEMS)など、スマートグリッド/スマートシティ実験で得られたアウトプットを、ビッグデータの利活用による新サービスの創出・事業化にどうつなげるかが課題となっている。

 これに対して、オランダでは防災、公共サービス、健康医療、農業など、エネルギー以外にスマートシティの領域を拡大させると同時に、ビッグデータのメリットを社会課題の解決に生かせる基盤づくりが行われている。

 例えば、治水・防災対策の分野では2013年6月から、オランダ国土交通省の水運管理局が、デルフト工科大学や地元の水道局のデルフラントデルタレス科学研究所、IBMなどと連携し、膨大な量の環境データを収集・分析しながら、洪水被災リスクの高い低地帯を多く抱えるオランダ全体の水路や運河の設計/建設、維持管理の効率化を図る「デジタル・デルタ」プロジェクトを開始している(デルフト工科大学関連のプレスリリースを参照)。

「デジタル・デルタ」プロジェクト(デルフト工科大学より)

 公共サービスの分野では2014年10月、オランダの名門サッカーチーム・アヤックスのホームグラウンドとして有名なアムステルダム・アリーナが、アムステルダム市および中国のHuaweiと連携し、スマートシティおよびスマートスタジアムのコンセプトを共同で開発する計画を発表した(「Huawei, Amsterdam ArenA & City of Amsterdam develop smart city concept」参照)。Huaweiが有するLTEやWi-Fiネットワークを利用してアリーナとアムステルダム市内を結ぶほか、PoE(Power over Ethernet)を利用した電源供給、オープンクラウドプラットフォームを利用したイノベーションセンターの開設などの構想が挙がっている。

 健康医療の分野では2015年1月、中国のZTEと中兴健康科技有限公司(上海市)の合弁会社「ZTEヘルス」が、オランダ応用科学研究機構(TNO)、アルメレ経済開発理事会(EDBA)と、健康医療ITおよびスマートシティに関する覚書を締結したことを発表した(「ZTE signs cooperation agreements with Dutch TNO and the Economic Development Board of Almere to enable smart city solutions」参照)。ZTEヘルス、TNO、EDBAの三者は、クラウドベースの健康医療プラットフォームを共同開発し、アルメレ健康研究所の既存プラットフォームと統合させながら、漢方医療をベースとする予防医療などのサービスを展開させる方針を打ち出している。

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