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「QUALIA」の総括麻倉怜士の「デジタル閻魔帳」(4/4 ページ)

» 2005年09月30日 11時53分 公開
[西坂真人,ITmedia]
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──最後にQUALIAを総括して下さい。

麻倉氏: 新規開発凍結ということになったのですが、QUALIAには003、008、009など、まだ欠番になっている数字があります。これら研究を続けていたものを捨ててしまっていいのでしょうか。技術の揺籃の場を失ったソニーに、差別化の手段はないのです。ソニーは窮するといって、血迷ってはいけなのです。このへんのことはストリンガーさんも、理解しなければなりません。英国誌に、ぐちをいっている暇はないでしょう。

 今回の新経営方針は、緊急避難的な意味合いが強い。問題点は、どういう会社にしたいのか、どういう製品を作るのかという道筋が見えてこないところです。かつて出井さんの掲げた「デジタル・ドリーム・キッズ」は、いろいろ問題もありましたが、あの時代としては方向性は明確でした。しかし今回の発表には、方向性はありません。分野の列挙はありましたが、新執行部ならではの時代認識に基づいたそれが聞きたかった。

 ただ、QUALIAに変わるハイエンド向けブランドを作れといっているのではありません。QUALIAの問題点は、ソニーというブランドが隠れてしまっていたことです。ソニーというブランドは、ハイエンドからローエンドまでラインアップが揃っているところに魅力があったのです。ソニーという企業は、夢を与えることが使命なのです。その意味では、QUALIAには夢がありました。“ソニーの夢”を復活しなければ、ソニーの復活は絶対にありえないでしょうね。

 私がこんなキツイことを言うのも、ソニーを愛しているからこそです。QUALIA的な因子は、まだまだソニーの内部にしっかりと息づいています。例えばAVアンプのTA-DA9100ESやSXRDプロジェクターのVPL-VW100など、ハイエンドの最高傑作です。こうした刮目製品を作れる力があるのですから、無駄なものに投資しないで、本当に良いものを作ろうとするQUALIA的な因子を適切にプロモートすることこそ、新生ソニーの目指すべき方向性だと思います。


麻倉怜士(あさくられいじ)氏 略歴

 1950年生まれ。1973年横浜市立大学卒業。 日本経済新聞社、プレジデント社(雑誌「プレジデント」副編集長、雑誌「ノートブックパソコン研究」編集長)を経て、1991年にデジタルメディア評論家として独立。自宅の専用シアタールームに150インチの巨大スクリーンを据え、ソニー「QUALIA 004」やBARCOの3管式「CineMAX」といった数百万円クラスの最高級プロジェクターとソニーと松下電器のBlu-ray Discレコーダーで、日々最新AV機器の映像チェックを行っている、まさに“映像の鬼”。オーディオ機器もフィリップスLHH2000、LINNのCD12、JBLのK2PROJEST/S9500など、世界最高の銘機を愛用している。音楽理論も専門分野。
 現在は評論のほかに、映像・ディスプレイ関係者がホットな情報を交わす「日本画質学会」で副会長という大役を任され、さらに津田塾大学の講師(音楽史、音楽理論)まで務めるという“3足のワラジ”生活の中、精力的に活動している。

著作
「久夛良木健のプレステ革命」(ワック出版、2003年)──ゲームソフトの将来とデジタルAVの将来像を描く
「ソニーの革命児たち」(IDGジャパン、1998年 アメリカ版、韓国、ポーランド、中国版も)──プレイステーションの開発物語
「ソニーの野望」(IDGジャパン、2000年 韓国版も)──ソニーのネットワーク戦略
「DVD──12センチギガメディアの野望」(オーム社、1996年)──DVDのメディア的、技術的分析
「DVD-RAM革命」(オーム社、1999年)──記録型DVDの未来を述べた
「DVD-RWのすべて」(オーム社、2000年)──互換性重視の記録型DVDの展望
「ハイビジョンプラズマALISの完全研究」(オーム社、2003年)──プラズマ・テレビの開発物語
「DLPのすべて」(ニューメディア社、1999年)──新しいディスプレイデバイスの研究
「眼のつけどころの研究」(ごま書房、1994年)──シャープの鋭い商品開発のドキュメント

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